彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 先生は私の腕を引いて足早にエレベーターの方へと向かっている。

 どうして、瀬名先生がここに・・・

 長い足が際立つスーツ姿を見て、ハッと思い出した。

 「先生っ、今日って学会ですよね!?もしかしてここが会場・・・」

 「そうだよ。今休憩中で、たまたま通りかかったんだ。そしたら・・・、」

 上昇するエレベーターの中で、先生は私の腕を掴んだまま真っ直ぐ前を見つめていた。
 先生の続きの言葉を待っているうちに、ポォンッという上品な音と共にエレベーターの扉が開いた。

 客室フロアであろう廊下を先生はそのまま歩き出し、私も必死についていく。

 「あのっ、先生どこにっ」
 
 ある部屋のドアの前に着くと、ピッとカードキーで開錠し中へ入った。

 「そこに座って」

 「え、でも・・・ここはっ・・・」

 「大丈夫。俺の部屋だから」

 そう言って先生は私の肩に両手を乗せると、側にあった2人がけソファへゆっくりと座らせ、コップに冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を注いでくれた。

 「はい、どうぞ。まずは飲んで」

 「あ・・・すみません、ありがとうございます」

 先生は少し離れたベッドに腰掛けた。

 私はせっかく注いでいただいたからと思い、コップの水をひとくち喉に流し込んだ。
 よく冷えた水のおかげで、緊張が少しだけ和らぐ。

 「何があったのかわからないけど、でも、君の顔を見たら身体が勝手に動いてた。急に連れ出して、ごめん」

 「い、いえ・・・・・・あの、正直、助かりました。人目につくところだったので・・・。泣き顔を晒してしまって、お恥ずかしいです」

 驚きでもうすっかり涙は引いていたが、今度は恥ずかしさが襲ってきて先生の顔を見れなくなった。

 さすがに振られたとこは見られていないよね・・・?あの時は周りにそんなに人はいなかったはずだし・・・。

 でも、泣き顔を見られてしまったんだよね・・・。あぁ、こんな時に職場の人に会うなんて・・・恥ずかしすぎるよ・・・・・・。
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