彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
どれくらい泣いていただろう。
先生の胸の中でようやく涙が止まり、乱れていた呼吸も落ち着いてきたところでハッと我に帰り、先生の胸を押して顔を上げた。
「先生!すいませんっ、あの、学会がっ・・・」
「ああ、大丈夫。今日は自由参加側だったから」
「でもっ・・・大事な勉強の時間を・・・」
「大丈夫だって。俺がしたくてしたことだから。それに資料もちゃんと貰ってるから内容だってわかるし」
先生はそう言ってくれるけど、なんてことをしてしまったんだと罪悪感に苛まれる。
もう30歳になる立派な大人のすることじゃないよね・・・。
「ははっ、そんなに罪悪感たっぷりの顔するならさ、このあとちょっと付き合ってくれない?」
困惑する私とは裏腹に笑顔を浮かべる先生に連れてこられたのは、ホテル上層階にあるバーだった。
オレンジとブルーのグラデーションの空を眺めながら話していたら、いつのまにかブラックのグリッタードレスのような夜景へと移り変わっていた。
「吉岡さん、そろそろやめといた方がいいんじゃない?」
「まだ、大丈夫です・・・それに、今日はとことん飲みたくなりました」
「フッ、じゃあ最後まで付き合うよ」
隣でカランっと氷が揺れた。その音に目を向けると、バーカウンターに肘をついてグラスを持っている先生が口角を上げていた。
薄暗い中で浮かび上がるその先生の姿が、やけに色っぽく見えた。
「先生って・・・かっこいいですよね・・・」
先生の動きがピタッと止まったことにも気づかず、私は独り言のように話続けた。
「みんなが騒ぐのもわかります・・・・・・仕事もできるし、イケメンだし、何をしてもスマートだし・・・・・・今日だって、なんですかぁ?ヒーローじゃないですか・・・・・・救い出して、慰めてくれて・・・・・・。でも、慣れてらっしゃるんですねぇ・・・・・・だめですよ・・・・・・こういうことは・・・次からぁ・・・大切な子だけに・・・してあげて・・・くださ・・・・・・」
そこで私は意識を手放した。
隣でコトンッと優しくグラスを置く音が聞こえたと思う。優しく髪を撫でられる感覚が気持ちよくて、そのまま深い眠りへと落ちていった。
「・・・・・・そうだね、ひより。でも、こんな事するのは・・・・・・君だけなんだよ」