彼女はしっかりもの
ミキ
「もうっ最悪! LINEに返信しないってだけで、鬼の形相で電話してくんの!」
「形相で電話…? テレビ通話?」
「どんな顔してんのか、語調で分かるってこと」
「ああ、なるほど」
シフォンケーキがおいしいと評判の素敵カフェで、(私何やってんだろ…)と思いつつ、トワコはミキの愚痴に相槌を打っていた。
2人は中学時代からの親友で、今年26歳である。
ミキは高校時代の同級生だったカズヤと3年前に結婚したが、今は最悪の関係であるらしい。
トワコは今のところ、交際している男性もいないし、友人もミキを含めてごくわずかだ。
しかし趣味や興味の範囲が広く、いろいろと試すのが好きなので、そういう状況も「自分の時間をたっぷりキープできる」と肯定的にとらえていた。
「時は金なり」という。
トワコの貴重な可処分所得ならぬ可処分時間を、最近ミキが何かと消費することが多くなった。
もはや彼女の苦言を聞くこの時間は、固定費もとい固定時間として考えなければならない域に達してきた。
「LINEのメッセージ、こっちには届いてなかったんだよ。そういうときってエラー通知とか来るよね?」
「ああ、そうねえ」
「それ確認もしないでさ、『なんで返事よこさねえ!さては男と一緒だな?』だって。バッカじゃないの?」
「はは、ウケる」
「そもそもあいつ、私が浮気してる証拠なんて、ホントはなーんにもつかんでないんだよ?」
「そうなの?」
「うん、根拠にしてるのが、下着を新調したとか、風呂にスマホ持ち込んでるとか、そんな状況証拠ばっかりだし。てか証拠じゃないし」
「ああ…」
「お風呂って退屈じゃん?You Tubeぐらい見るっつーの」
確かにトワコにとっても、風呂で動画を見たりラジオを聞いたりするのは楽しみの一つである。むしろ、スマホを持ち込まない人って何しているの? カラスの行水なの?と思っているくらいだ。
下着だって、所詮は消耗品である。買い替えくらい普通にするだろう。みんなが10年履いても破れない鬼のパンツを愛用しているわけではない。
「私は家にいるときは絶対彼氏と連絡とらないし、家にも連れ込まないし、節度をわきまえてるからさ」
「そう…」
トワコはシフォンケーキをフォークで一口大に切り、ホイップクリームを少し添えて口に入れた。
(ああ、アールグレイの香りがなんて尊い…)
本当はこういうものは、マリー・ローランサンの絵とか、澁澤龍彦の小説とか、シャフト制作の2000年代のアニメとかを話題にしながら食べたいのだが、多分ミキには自分(と彼氏)しか話せる相手がいないのだろう――と、トワコはあくまで広い心で愚痴に耳を傾け続けた。
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