彼女はしっかりもの

カズヤ

 トワコはミキと高校まで一緒だったので、カズヤのこともよく知っていた。

 というよりも、もともとカズヤとトワコが付き合っており、ミキはむしろ2人を冷やかすのが日常だったし、3人まとめて「友人関係」と言えなくもなかった。

 カズヤは物静かで優しく、いろいろな意味で大きな声を出す人ではなかった。
 自己主張もしないし、人に対して怒鳴りつけたり威嚇したりなどもしない。

 卒業後、トワコだけが大学進学のために地元を離れ、カズヤとミキは地元の同じ大学に進学した。

 あとは推して知るべし。



 トワコはそれでもできる限りカズヤとの接触を試みたが、会えない時間の方が圧倒的に長い中、カズヤが本当はどんな気持ちなのか、確かめることもできない。

 大学1年の夏休み、帰省の折に2人に呼び出され、泣いて謝られ、真剣さを訴えられれば、許すしかなかった。

 後から分かった話だが、ミキはカズヤにこう言っていたらしい。

「トワコ、都会でもっとカッコイイ彼氏とかできてたりして。美人だし頭もいいし、こんな田舎でくすぶってる子じゃなかったね」

 トワコは生活費の補填(ほてん)のため、学業に支障のない範囲でアルバイトに精を出し、お誘いにも「地元に付き合っている人がいるから…」と断り続けていた。

 カズヤはトワコのことが好きだったが、基本的に自分に自信がなかったこともあり、ミキの邪推の方を簡単に信じた。
 ミキは女性としてのランクはトワコより落ちるが、少なくとも自分のそばにいてくれる。それだけで「好きになれそう」に思え、徐々にカズヤの心はミキに傾いていった。

 そんな下地作りは、大学入学から夏休みまでの数カ月あれば十分である。

 カズヤはトワコからの連絡への返信も滞りがちになり、着信拒否こそしないものの、電話に出る回数も落ちて行った。

「君には悪いことをしたと思う。でも、本当に俺が好きなら、俺のそばにいることを選んでくれるのが普通かなって…」

 せめて2人がもっと身勝手で侮辱的な言葉をぶつけてくれれば、トワコはこの場で2人との関係をすぱっと切ることができたはずだ。

 トワコはトワコで基本的に変に人がいいというか、少々自虐的なところがあったので、「彼と一緒にいることより、好きな勉強を選んだワガママ(・・・・)な自分のせいだ」と思わされてしまった。

「こっちこそ――あなたの気持ちを理解してあげられなくて、ごめんなさい」

 トワコが頭を下げたので、このときミキが浮かべた薄いほほ笑みには気付かず、ミキとの友人関係は続くことになった。
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