彼女はしっかりもの

夫婦



 少しさかのぼって。
 ミキとカズヤは結婚式を地元で挙げたが、それにトワコは招待されなかった。

 もともとカズヤとトワコが付き合っていたことを知っていたミキの母親が、「トワコちゃんを呼ぶのは無神経だ」と言って制したらしい。

 トワコにしてみれば、呼ばれても呼ばれなくてもそう気にすることではなかったのだが、聞いてもいないのに、呼ばなかった理由を説明されたことに軽く傷ついた。
 それが本当のことであれ口から出まかせであれ、要するに「弁解」ということだ。

 ブライダルエステで磨き上げたミキのドレス姿はかわいらしかった。

「ミキみたいにかわいいお嫁さんで、彼も幸せ者ね」

 トワコは結婚披露宴の写真を見て、お世辞込みでそう言った。

「何言ってるの!トワちゃんだってまだ若いんだから、これからこれから!」

 ミキは、トワコの言葉を一種の自虐のように受け取って励ました。

 トワコはかなり温度差を感じたものの、深く掘り下げても誰も幸せにならないからと、「うん、頑張るね」とだけ答えた。

◇◇◇

 「頑張って稼いでミキを幸せにしたい」と仕事に精を出すカズヤと、それを「新婚なのにほったらかし!」と憤るミキの間にも、徐々に温度差が生まれた。

 そこでミキは、週3回だけアルバイトすることにした。
 それは気晴らしと、ちょっとした金銭的な自立と――交友関係の拡大に役立った。

 トワコが自分のしたいことを優先してミキの誘いを断ると、「友達甲斐のないヤツだな!」と口をとがらせてたミキに責められ、結局無理して付き合うこともあったので、自分の方にあまり寄り付かなくなったことを、正直言って「歓迎」した。

 ミキはアルバイト先で知り合った大学生と、あっという間に「いい仲」になった。
「そこまで年上でもなくかわいらしいタイプで、暇を持て余す人妻」
 その男にとって、こんなに遊びやすい相手もいなかったろう。

 その大学生とは彼の卒業まで続き、別れた後は、軽く落ち込んでいたミキをトワコが慰め、「でも浮気は感心しないぞ?」と、意識的におどけた口調で軽くいさめた。

 ミキは「そうだね…」と反省の色を少し見せたものの、実に実に余計な弁明を付け加えた。

「でもね、トワちゃんも人を好きになったら分かるよ」

 この段階ではカズヤはミキの火遊びに全く気付いていなかったが、味を占めたミキは、また次のお相手を物色し始めた。

 しかし、こうなるとボロを隠し切れなくなり、ちょっとした疑惑の種を見つけ、猜疑心の塊になったカズヤから、ミキが罵声と暴力を浴びせられるようになるのに、時間はそうかからなかった。

◇◇◇

 ミキは「彼氏」との接触はまだあるようだが、同時にトワコへのコンタクトもまめに取るようになった。
 カズヤへの目くらましと、愚痴聞き要員のような意味合いがあったろう。

「ビッチ呼ばわりされた」
「スマホ壊されそうになった」
「髪の毛をつかまれた」
「(全くときめかない)壁ドンをされた」

 ミキからは、こんな話を聞かされていた。
 確かに不倫はよろしくないが、暴力も許されるものではない。
 ここはカズヤの言い分を聞くべきだろうが、会って話したいとは思えないし、別に仲裁を頼まれているわけではない。

 ただ、カズヤは「俺は絶対、離婚には応じないからな!」と言っているという。
 離婚したくない男が、どうしてそんな嫌われ要素の強いことばかりするのか、不可解ではある。
 収まらない気持ちをひたすら愛する(?)女にぶつけるという、愛憎半々の気持ちなのだろう。

 ミキをそんなふうに扱いたいと思っているわけではないのに、ついひどい言葉をぶつけ、暴力をふるってしまう(・・・)ことに悩んでいるのかもしれない。
 いっそ別れてしまえば楽だろうに、なけなしの愛にこだわっているのか、ただ意固地になっているのかだ。

 トワコはどちらも理解はできるが、共感は全くできないでいた。
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