片方だけのカフスボタン

唐草模様のノート


 私「ともよ」は今16歳で、家からバスで10分の公立高校に通っている。

 特に優秀でもなければヤンキーだらけというわけでもない、ごくごく普通の学校の普通科で、大好きなアイドルや新製品のお菓子、ファンシーショップでたまたま見かけて衝動買いした唐草模様のノートの話なんかで、友達と盛り上がっている。



「ともちん、何でそんな変なの買ったの?」
 私のノートを見て、親友のアコちゃんがけげんそうに言った。
 アコちゃんは、“こひつじラミー”というフワフワのキャラクター製品を愛用しているから、この渋い魅力がわかんないのよね。
「えー、かわいいじゃん」
 私はそう反論したけれど、別に本当にかわいいと思っているわけではない。ただ「何かいいなあ」と思って買っただけなのだ。

 そんなやりとりをそばで聞いていた、情報通で知られるサトミちゃんが口を挟んできた。
「あ、それ雑誌で見た。「ごきんじょみっちゃん」のやつだよね」
「え、そうなの?」
「え、ともよちゃん、知らないで買ったの?」
「うん…」
 私も初耳だったのだが、東京の三軒茶屋だかどっかにある雑貨屋さん?の人気商品らしいのだ。

「どこで買ったの?ひょっとして東京に行ったとか?」
「まさか。駅前商店街のリンリンで買ったんだよ」

 リンリンはいわゆるファンシーショップだが、実はすぐ近くにある、結構大きなおもちゃ屋さんと同じ人が経営者らしい。
 置いている商品がかわいいというのもあるだろうけど、店長がかわいい感じの童顔のお兄さんなので、そういうのもあって女子中高生に人気なのだ。

「へええ。あそこってそんなおしゃれなの扱ってんだ?私も買おっかな」

 繰り返すが、私は別におしゃれとかかわいいとか思って買ったわけではないけれど、感覚は人それぞれだ。

「あとシャーペンとかペンケースとか、ポーチとかもあったよ。それとコーヒーカップと…」
 実は下着(パンティー)もあったのだが、私は何となくそれを口にするのが照れくさくて、そこで言葉を止めた。
 売っているのを見たときも、(こんなの誰が履くんだよ…)と思って、少し呆れたくらいだ。

「えー、そんなの全部買ったらお小遣いなくなっちゃうよ」
「いや、別に全部買わんでも…」

 ノートは150円。購買部で売っている学校オリジナルより30円高いけど、もっとずっと薄い。
 それでもお気に入りを苦手科目に使ったら、少しは勉強もやる気になるかなって思って、タイトル欄に科目名を書き入れた。

 苦手な科目って、大体授業を聞いているだけで眠くなっちゃうので、必死でノートを取っても、途中で自分でも判読不明な(読めない)ミミズ文字になっていることがよくある。
 あのサトミちゃんがうらやむ、せっかくの「ごきんじょみいちゃん」グッズなのだから、そんな惨めな目に遭わせてはいけないよね。

***

 こんな毎日だから、将来のことはまだあまり真剣に考えていない。
 卒業したら地元の短大か専門学校に行くように親から勧められているけれど、早く自分でお金を稼いで、欲しいものを買ったり旅行したりというのも憧れるので、3年生になるまでにはいろいろ固めないとなあと思いながらも、ずーっと16歳でいたいという気持ちの方が強いという段階だ。

 だって16歳のままでいれば、大好きなお祖母ちゃんも今のまま年を取らず、ずっと生きていてくれるだろうしね。

 おばあちゃんは70歳をとうに超えていて、今入院中だ。
 入院している病院が、たまたま学校からそう遠くない場所にあるので、私はしょっちゅうお見舞いに行っている。
 病院の売店はあまりいいものを売っていないので、おばあちゃんに外の店のお使いを頼まれることもあって、「おつりはお駄賃だよ」って言われたから、おつりで買ったのが、例の唐草模様のノートだった。
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