最後の会話

冷蔵庫に○○

「もしもし、カオリさん…?」
『あら、キミちゃん』

 カオリはヒロシを女性にしたようなタイプだ。
 いつも穏やかな性格がにじみ出たような柔和な表情で、見るからに感じがいい。キミエも実の姉のように慕っていた。

「突然電話なんか、すみません」
『えー、遠慮しなくていいのよ。キミちゃんならいつでも大歓迎だから』

 カオリの様子から、キミエは彼女が「ヒロシのこと」を何も知らないのだと確信した。

「あの…今ってどちらにいらっしゃるんですか?」
『え?家にいるけど』
「あ、と…その…これからお邪魔したいんですけど…」
『え、ヒロシと一緒に?』
「いや、あの、ヒロシさんのことでお話があって…」

『ということは、今キミちゃんはおうちに1人ってこと?』
「はい、そうです」
『ヒロシってそろそろ帰ってくる時間よね?』
「…分かりません」
『え?』
「あ、何でもないです」

 察しのいいカオリは、『私そっちに行くわ。もし途中でヒロシが帰ってきたら、姉妹(・・)水入らずで飲みにいくとか何とか言って、外で話さない?』

 暗闇のように何もつかめない状況で、カオリの茶目っ気のある提案はキミエを元気づけた。
 カオリの言うとおり、ヒロシはちゃんと帰ってくるかもしれないし、むしろ「帰ってくるに決まっている」とさえ思えた。

「分かりました。待ってます」

◇◇◇

 カオリは手土産にとクッキーを携えて、10分ほどで到着した。

「はい、これ食べて」
「気を使わせちゃってすみません」
「気もお金も使ってないわよ。お邪魔するね」

 キミエはクッキーに合わせてお茶を出そうと思い、「コーヒーと紅茶、どっちにしますか?」と尋ねた。

「あ、悪いけど冷たいお水ちょうだい。少しのどか渇いているの」
「はいっ」

 キミエはペットボトルを出すために冷蔵庫を開けた。
 すると、白い長封筒が真ん中の段のまん真ん中、つまりキミエの目線なら真っ先に目に飛び込んでくるであろう位置に置かれているのを見つけた。
 細いボールペンを使ったらしく、手に取らないと読めなかったが、「キミエへ」という宛名が書かれていた。

 それを目にしたキミエがゾクッとしたのは、冷蔵庫の冷気のせいだけではない。
 絶対によくないことが書かれているという予感がした。

◇◇◇

「少しのあいだ ひとりになりたい

探さないでくれ

ヒロシ」
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