連作短編集『みずいろうさぎ』
踊り場
あとがきだけど あとがきじゃない
『みずいろうさぎ』へのアクセス、まことにありがとうございます。
カート・ウォネガットの『死よりも悪い運命』のまえがきで、「まえがきというのは(中略)たいてい最後に書かれる」という一文がありました。
本を編む作業が一段落した後の方が、冷静に公平に、そして俯瞰的に全体を見られるということなのでしょう。
私は本などついぞ出版したことがないので、「そういうものか…」と思うだけですが、もちろん、まずはまえがきからという方もいれば、逆に「あとがき(を具体的に書くかどうかは別として)にこう書くために、本編をこうしたい」というふうに考える、つまりは「あとがき」ありきで執筆をする方もいるかもしれません。
それはそれとして、「あとがきだけどあとがきじゃない」です。
『みずいろうさぎ』は、昔の友人から聞いた経験談を元にした創作です。
その友人とは今は全く連絡も取り合っていないため、許可を取ったわけではありませんが、多分本人が読んでも分からないだろう――という程度にはアレンジしてあります。
最初は『みずいろうさぎ』単体だけで終わらせるつもりだったのですが、書いているうちに、「もう一つの家庭」についても書いてみたくなり、『父のまなざし』と『中吉クラスの幸運』の2本をほぼ立て続けに書くことになりました。
***
『みずいろ…』の主人公は、父が不倫恋愛のため二重生活をしていた事実を小4で突き付けられ、さらには父が家を出ていくというお話でした。
そして『父の…』『中吉…』は、『みずいろ…』の父が家を出た後を、「娘」である少女視点書いています。
少女が父と母の秘密に気付いているかどうかについて、いろんなバターンを考えたのですが、「母が娘にきちんと事実を伝える」「母が『父にはかつて不倫関係の女性がいたが、修復した』と歪めて伝える」などはボツにしました。
実際にはもっとショックを受ける、反発をするという可能性も高いのだと思いますが、モデルになった元友人の「今は何とかなってるし、もういいかなって」という一言が妙に印象に残り、そんなふうに淡々と受け入れる少年少女の「リアリティーのないリアル」みたいなものを書いてみたくなったのです。
少女の父親と母親が正式に結婚した時点で、例えば姓が変わる、養子縁組するなど、いろいろとバレポイントもありそうですが、姓は母方のを選べばいいし、書類上でどう動いていようと、小1の娘ちゃんは与り知らないところというのが普通です。
昔は例えば進学、就職の際に戸籍謄本の提出を求められたりしましたが、現在はそれもありません。
もしその手のことでバレるとすれば、「修学旅行が海外なので、パスポートを取らなければいけないから」あたりでしょうか。
「最初から出張が多くて不在がちだっただけ」ということにしておけば、ゼロ距離で詮索してくる人はそうそういないのではないでしょうか(これは町内会や子ども会の役員をしていた頃の実感です)。
市井の人々は、皆さんそこまで下世話でも暇でもないものです。
迷惑レベルで突っ込んでくる人が《《たまに》》いるからこそ、「スカッと何とか」的なテレビ番組やYou Tube動画が成立するということです。
ただ、父方の親類縁者、会社関係者からは「妻子を捨てた男」という目で見られ、よく思われない可能性が高く、「死んだ/きょうだいいない/親戚、何それおいしいの?」くらい無縁でもおかしくないかなと考えました。
これもあくまで個人の意見なので、葬式に来た父方の親族がうっかり口走ったことで、敏い少女が何かに気付いてしまうという展開もあり得たでしょう。
乙女ゲーが好きで時々プレイするので、分岐ポイントで何を選択するかでがらっと結末が変わってしまうという流れを書きたいという欲がしばしば生じます。
逆に、結末は一緒でも、心情やそこまでの経過がまちまちという裏設定にもまた惹かれます。
***
さて、「少年」と「少女」の目線だけで終えようとも思ったのですが、この問題の当事者はほかにもいます。
「少年」の弟、いわば「少年2」はどんな心境だったか?
略奪された元妻と、略奪したが死別した妻の思いは?
どこまで行っても書き手の勝手な憶測にすぎないものの、今後発作的に書きたくなる可能性があるため、この連作短編集の中ではシメというよりも、ここを階段の踊り場的なところとして、もう少し上に上がる(もしくは下がる)可能性があります。
ずーっと連載中ステータスで放置かもしれないし、すぐにノコノコ戻ってきて完結させるかもしれない。
あるいは全く気が変わって、この3本で終わらせる可能性もゼロではありません。
いずれにしても、もう少しお付き合いいただけますでしょうか。
カート・ウォネガットの『死よりも悪い運命』のまえがきで、「まえがきというのは(中略)たいてい最後に書かれる」という一文がありました。
本を編む作業が一段落した後の方が、冷静に公平に、そして俯瞰的に全体を見られるということなのでしょう。
私は本などついぞ出版したことがないので、「そういうものか…」と思うだけですが、もちろん、まずはまえがきからという方もいれば、逆に「あとがき(を具体的に書くかどうかは別として)にこう書くために、本編をこうしたい」というふうに考える、つまりは「あとがき」ありきで執筆をする方もいるかもしれません。
それはそれとして、「あとがきだけどあとがきじゃない」です。
『みずいろうさぎ』は、昔の友人から聞いた経験談を元にした創作です。
その友人とは今は全く連絡も取り合っていないため、許可を取ったわけではありませんが、多分本人が読んでも分からないだろう――という程度にはアレンジしてあります。
最初は『みずいろうさぎ』単体だけで終わらせるつもりだったのですが、書いているうちに、「もう一つの家庭」についても書いてみたくなり、『父のまなざし』と『中吉クラスの幸運』の2本をほぼ立て続けに書くことになりました。
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『みずいろ…』の主人公は、父が不倫恋愛のため二重生活をしていた事実を小4で突き付けられ、さらには父が家を出ていくというお話でした。
そして『父の…』『中吉…』は、『みずいろ…』の父が家を出た後を、「娘」である少女視点書いています。
少女が父と母の秘密に気付いているかどうかについて、いろんなバターンを考えたのですが、「母が娘にきちんと事実を伝える」「母が『父にはかつて不倫関係の女性がいたが、修復した』と歪めて伝える」などはボツにしました。
実際にはもっとショックを受ける、反発をするという可能性も高いのだと思いますが、モデルになった元友人の「今は何とかなってるし、もういいかなって」という一言が妙に印象に残り、そんなふうに淡々と受け入れる少年少女の「リアリティーのないリアル」みたいなものを書いてみたくなったのです。
少女の父親と母親が正式に結婚した時点で、例えば姓が変わる、養子縁組するなど、いろいろとバレポイントもありそうですが、姓は母方のを選べばいいし、書類上でどう動いていようと、小1の娘ちゃんは与り知らないところというのが普通です。
昔は例えば進学、就職の際に戸籍謄本の提出を求められたりしましたが、現在はそれもありません。
もしその手のことでバレるとすれば、「修学旅行が海外なので、パスポートを取らなければいけないから」あたりでしょうか。
「最初から出張が多くて不在がちだっただけ」ということにしておけば、ゼロ距離で詮索してくる人はそうそういないのではないでしょうか(これは町内会や子ども会の役員をしていた頃の実感です)。
市井の人々は、皆さんそこまで下世話でも暇でもないものです。
迷惑レベルで突っ込んでくる人が《《たまに》》いるからこそ、「スカッと何とか」的なテレビ番組やYou Tube動画が成立するということです。
ただ、父方の親類縁者、会社関係者からは「妻子を捨てた男」という目で見られ、よく思われない可能性が高く、「死んだ/きょうだいいない/親戚、何それおいしいの?」くらい無縁でもおかしくないかなと考えました。
これもあくまで個人の意見なので、葬式に来た父方の親族がうっかり口走ったことで、敏い少女が何かに気付いてしまうという展開もあり得たでしょう。
乙女ゲーが好きで時々プレイするので、分岐ポイントで何を選択するかでがらっと結末が変わってしまうという流れを書きたいという欲がしばしば生じます。
逆に、結末は一緒でも、心情やそこまでの経過がまちまちという裏設定にもまた惹かれます。
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さて、「少年」と「少女」の目線だけで終えようとも思ったのですが、この問題の当事者はほかにもいます。
「少年」の弟、いわば「少年2」はどんな心境だったか?
略奪された元妻と、略奪したが死別した妻の思いは?
どこまで行っても書き手の勝手な憶測にすぎないものの、今後発作的に書きたくなる可能性があるため、この連作短編集の中ではシメというよりも、ここを階段の踊り場的なところとして、もう少し上に上がる(もしくは下がる)可能性があります。
ずーっと連載中ステータスで放置かもしれないし、すぐにノコノコ戻ってきて完結させるかもしれない。
あるいは全く気が変わって、この3本で終わらせる可能性もゼロではありません。
いずれにしても、もう少しお付き合いいただけますでしょうか。