ねずみちゃんと熊田くん
7話 少し離れてまたくっついて
◯夏休み明け・高校の教室
二学期の始業式。教室では久しぶりに会ったクラスメイトたちが夏休みの思い出話に花を咲かせている。「宿題終わってないよー」「お前、彼女できたってマジ?」と様々な声。
登校したばかりの千波が、宿題のプリントをチェックしていると、友人たちが集まってくる。
美鈴「千波、おはよー」
千波「おはよー。美鈴、日焼けしたね」
美鈴「部活の夏合宿があったからね。朝から夕方まで走りっぱなしで焼くなって方が無理だよ」
あははと笑って、千波は優愛を見る。
千波「優愛も焼けたね?」
優愛「うち、夏休みはいつも海外で過ごすから」
千波「海外ってどこ?」
優愛「ハワイ」
千波「この……セレブがっ」
千波、わざとらしくツッコむ。葵がさらりと会話に入ってくる。
葵「千波は、夏休みどこか行った?」
千波「遠出はしてないよ。浩くんと映画を観に行ったのと、浩くんと水族館に行ったのと……あとは浩くんと図書館に行ったり、近所の夏祭りに行ったり……」
今度は葵がわざとらしくツッコむ。
葵「ラブラブかっ」
◯数日後・教室
クラス会が開かれている。教壇に立つ委員長と副委員長が、ガヤガヤと騒がしい教室を仕切っている。黒板には大きく『9月2日・3日 しらさぎ高校学園祭』の文字。
千波モノ『しらさぎ高校では9月に学園祭がある。学外からも多くの人が訪れる、1年で1番大きなイベントだ』
委員長「クラス企画の内容について、希望がある人は言ってくださーい」
女子生徒が手を挙げる。
女子生徒「今年は、飲食物の提供はオッケーなの?」
委員長「基本的はオッケーです。ただし家庭科室の備品に限りがあるため、希望がすべて通るとは限らないそうです」
男子生徒が続いて質問する。
男子生徒「クラス企画の予算はいくらだっけ?」
委員長「2万円。あと収益が見込める企画に限り、1人につき500円までお金を集めても良いそうです」
千波モノ『つまり2万円の予算で収まる企画を立ててもいいし、お金を集めてガッツリ収益をあげにいってもいいということ。クラスによって判断のわかれるところだ』
謎解きゲーム、コスプレ喫茶、お化け屋敷と様々な意見がとびかう中、優愛が千波に話しかける。
優愛「1年のときのクラス企画、何だった?」
千波「うちのクラスは縁日だったよ」
優愛「ふーん、良かった?」
千波「(親指を立てて)良かったよ。浴衣を持ち寄りにしたから衣装の準備はしなくてよかったし、特別作るのが大変な物もなかったし」
優愛「ふーん」
千波「優愛のクラスは?」
優愛「(さらりと)メイド喫茶」
千波「(尊敬の眼差しで)おお……」
◯放課後・文芸部の部室
何人かの部員が集まり、本を読んだり、おしゃべりしてりしている。学校祭が近づいてきたということもあり少しわくわくした雰囲気。
申し訳ばかりに本を開きながら、千波と先輩(女性・真面目系)もおしゃべりの真っ最中。
先輩「じゃあ根津さんのクラスのクラス企画は、和風喫茶に決まったんだ?」
千波「決定ではないけどほぼ決まりですねー。うちのクラスに実家が和菓子屋さんって子がいるんですよ。その子がお得な価格で和菓子を卸してくれるっていうから」
先輩「(不満そうに)うわ、ずるい。そういうずるい作戦が許されちゃうの、うちの学校祭の悪いところだよね」
千波「(こちらも不満げに)いいところって言いましょうよー」
そこへ掃除当番を終えた浩介がやってくる。「お疲れ様ですー」と挨拶をした後、当然のように千波の横に座る。
浩介「ねずみちゃん、何の話してたの?」
千波「学校祭のクラス発表の話だよ。浩くんのクラスは何するの?」
浩介「んー……カジノ?」
千波と先輩、同時に顔をしかめ聞き返す。
千波・先輩「……カジノ?」
浩介「(たどたどしく)お金を専用通貨に両替して、簡単なトランプゲームとかサイコロゲームで遊べるようにするんだって。僕も詳しいことはよくわかんないんだけど」
千波と先輩は驚き半分、あきれ半分で顔を見合わせる。
千波「学校祭でカジノ……ってオッケーなんですかね?」
先輩「いやぁ……どうだろ……」
○学校祭の準備風景
少し色の変わり始めた木々、夏が過ぎもうすぐ秋がやってくると感じされるいくつか場面。
学校祭の準備期間が始まり、生徒たちは休み時間や放課後を利用してせっせと準備に励んでいる。教室で衣装作りに精を出す生徒、多目的室で垂れ幕を作る生徒、大きな板で看板を作る生徒。
○放課後・高校の廊下
千波は数人のクラスメイトと一緒に廊下を歩いている。皆、両手に大荷物を抱えている。(段ボールや模造紙、ペンキ缶や木の板など)
クラスメイト①「本格的な和風喫茶にするならさ、和傘ほしくない?」
クラスメイト②「ほしいー。でも買うと高いよ」
千波「模造紙と竹ひごでそれらしく作れないかな?」
クラスメイト③「それ、いけるかも。試しに1個作ってみよーよ」
わいわいと話しながら廊下を歩いていた千波は、中庭に浩介の姿を見つける。芝生に座り込んだ浩介は、クラスメイトたちに囲まれておしゃべりの真っ最中。
芝生には飲み物やお菓子が広げられており、休憩中という雰囲気。
千波(浩くんだ)
千波は足を止めて、窓ガラス越しに浩介を見つめる。浩介は千波の視線に気付かずおしゃべりに夢中。男子生徒と小突きあったり、女子生徒からお菓子を受け取ったりと楽しそう。
千波は胸にちくりと痛みを覚える。(浩介が自分とは違う空間にいることに寂しさを感じた)しかしその痛みを自覚するよりも先に、少し離れたところからクラスメイトに名前を呼ばれる。
クラスメイト①「千波、どうしたのー?」
クラスメイト②「早く教室に戻ろーよ」
千波「(慌てて)あ、うん」
千波は駆け足で友人たちに追いつく。
千波がいることに気がついた浩介が、中庭からその背中を見つめている。
○下校時刻・校門前
校舎の時計は18時5分を指している。太陽は沈みはじめ、校舎の陰が長く伸びている。
千波モノ『学校祭の準備期間中、生徒は午後6時まで学校にいることができる』
校門前は、帰宅するたくさんの生徒で賑わっている。浩介と下校することにすっかり慣れてしまった千波は、校門付近をきょろきょろと見回すけれど、そこに浩介の姿はない。
千波は校門横の石塀に背中をあずけ、スマホを見る。浩介からメッセージは届いておらず、着信もない。「んー……」とうなり声をあげてしばらく悩むものの、結局、浩介に連絡は入れず歩き出す。
千波(仕方ない、か。学祭期間中はどうしてもクラスの人といる時間が増えるもんね。うちのクラスの男子も、みんなでご飯食べて帰るんだって言ってたし)
通学リュックの肩紐に両手をかけてトボトボと歩く。
千波(浩くん、誰と一緒に帰ったんだろ。ひょっとして女の子かな)
千波モノ『学校祭の準備期間は彼氏彼女ができやすい。気分がわくわくする時期だし、何かと一緒にいる時間が増えるから。「学祭マジック」なんて呼び方をするくらいだ』
千波(もしかして浩くんに彼女ができちゃったりしたら……もう一緒に登下校できなくなっちゃうのかな)
千波は口をへの字に折り曲げ、瞳を潤ませる。(浩介との関係に名前をつける必要はないと結論づけたはずなのに、浩介が離れていってしまうことに悲しみを覚える
)
千波がぐしっと目元をぬぐったとき、後ろから駆けてきた浩介が、千波の手をつかむ。
浩介「ねずみちゃん!」
千波、振り向く。涙の粒が舞う。
千波「(心底驚いた顔で)浩……くん?」
浩介「(息を弾ませて)よかった、追いついたぁ」
浩介はいつものようにニコニコと嬉しそう。泣いていたことがばれないように、千波は浩介から顔を背ける。しかし浩介はめざとく千波の顔をのぞき込む。
浩介「ねずみちゃん、もしかして泣いてた?」
千波「(大慌てで)泣いてない! 目にゴミが入ったの!」
浩介「(素直に)え、大変。見せて」
浩介は両手で千波の頬をはさみ、顔を近づける。至近距離で見つめ合い、千波はドキドキと胸が高鳴る。しばらく無言で見つめあったあと、浩介はへにょりと眉を下げる。
浩介「……よくわかんない」
千波ははっと我に返り、強引に浩介から視線を逸らす。
千波「もう取れたの! 泣いたから!」
そしてドキドキを隠すために早足で歩き出す。間もなく浩介が追いついてくる。
千波「……浩くん、クラスの人と一緒に帰らなくてよかったの?」
浩介は不思議そうに首をかしげる。
浩介「なんで?」
千波「学祭期間中はクラスの人と仲良くなるチャンスじゃん。中庭で楽しそうにしてたから、みんなで一緒にご飯でも食べて帰るのかなって」
浩介、ぱっと表情を明るくする。
浩介「ご飯、一緒に食べて帰る?」
千波「(ガクッと肩を落として)私とじゃなくってさ」
苦笑いを浮かべながらも、浩介がクラスメイトよりも自分を選んでくれたことが嬉しくなる千波。初めて、自分から浩介と手をつなぐ。浩介は驚いた表情を浮かべるが、すぐに幸せそうな笑顔になる。
しっかりとつながれた手のアップ。
千波「ご飯に行くのは明日にしようよ。お母さんに『晩ご飯はいらない』って言っとかないといけないから」
浩介「(嬉しそうに)やったー。何、食べる?」
千波「んー……パスタ」
二学期の始業式。教室では久しぶりに会ったクラスメイトたちが夏休みの思い出話に花を咲かせている。「宿題終わってないよー」「お前、彼女できたってマジ?」と様々な声。
登校したばかりの千波が、宿題のプリントをチェックしていると、友人たちが集まってくる。
美鈴「千波、おはよー」
千波「おはよー。美鈴、日焼けしたね」
美鈴「部活の夏合宿があったからね。朝から夕方まで走りっぱなしで焼くなって方が無理だよ」
あははと笑って、千波は優愛を見る。
千波「優愛も焼けたね?」
優愛「うち、夏休みはいつも海外で過ごすから」
千波「海外ってどこ?」
優愛「ハワイ」
千波「この……セレブがっ」
千波、わざとらしくツッコむ。葵がさらりと会話に入ってくる。
葵「千波は、夏休みどこか行った?」
千波「遠出はしてないよ。浩くんと映画を観に行ったのと、浩くんと水族館に行ったのと……あとは浩くんと図書館に行ったり、近所の夏祭りに行ったり……」
今度は葵がわざとらしくツッコむ。
葵「ラブラブかっ」
◯数日後・教室
クラス会が開かれている。教壇に立つ委員長と副委員長が、ガヤガヤと騒がしい教室を仕切っている。黒板には大きく『9月2日・3日 しらさぎ高校学園祭』の文字。
千波モノ『しらさぎ高校では9月に学園祭がある。学外からも多くの人が訪れる、1年で1番大きなイベントだ』
委員長「クラス企画の内容について、希望がある人は言ってくださーい」
女子生徒が手を挙げる。
女子生徒「今年は、飲食物の提供はオッケーなの?」
委員長「基本的はオッケーです。ただし家庭科室の備品に限りがあるため、希望がすべて通るとは限らないそうです」
男子生徒が続いて質問する。
男子生徒「クラス企画の予算はいくらだっけ?」
委員長「2万円。あと収益が見込める企画に限り、1人につき500円までお金を集めても良いそうです」
千波モノ『つまり2万円の予算で収まる企画を立ててもいいし、お金を集めてガッツリ収益をあげにいってもいいということ。クラスによって判断のわかれるところだ』
謎解きゲーム、コスプレ喫茶、お化け屋敷と様々な意見がとびかう中、優愛が千波に話しかける。
優愛「1年のときのクラス企画、何だった?」
千波「うちのクラスは縁日だったよ」
優愛「ふーん、良かった?」
千波「(親指を立てて)良かったよ。浴衣を持ち寄りにしたから衣装の準備はしなくてよかったし、特別作るのが大変な物もなかったし」
優愛「ふーん」
千波「優愛のクラスは?」
優愛「(さらりと)メイド喫茶」
千波「(尊敬の眼差しで)おお……」
◯放課後・文芸部の部室
何人かの部員が集まり、本を読んだり、おしゃべりしてりしている。学校祭が近づいてきたということもあり少しわくわくした雰囲気。
申し訳ばかりに本を開きながら、千波と先輩(女性・真面目系)もおしゃべりの真っ最中。
先輩「じゃあ根津さんのクラスのクラス企画は、和風喫茶に決まったんだ?」
千波「決定ではないけどほぼ決まりですねー。うちのクラスに実家が和菓子屋さんって子がいるんですよ。その子がお得な価格で和菓子を卸してくれるっていうから」
先輩「(不満そうに)うわ、ずるい。そういうずるい作戦が許されちゃうの、うちの学校祭の悪いところだよね」
千波「(こちらも不満げに)いいところって言いましょうよー」
そこへ掃除当番を終えた浩介がやってくる。「お疲れ様ですー」と挨拶をした後、当然のように千波の横に座る。
浩介「ねずみちゃん、何の話してたの?」
千波「学校祭のクラス発表の話だよ。浩くんのクラスは何するの?」
浩介「んー……カジノ?」
千波と先輩、同時に顔をしかめ聞き返す。
千波・先輩「……カジノ?」
浩介「(たどたどしく)お金を専用通貨に両替して、簡単なトランプゲームとかサイコロゲームで遊べるようにするんだって。僕も詳しいことはよくわかんないんだけど」
千波と先輩は驚き半分、あきれ半分で顔を見合わせる。
千波「学校祭でカジノ……ってオッケーなんですかね?」
先輩「いやぁ……どうだろ……」
○学校祭の準備風景
少し色の変わり始めた木々、夏が過ぎもうすぐ秋がやってくると感じされるいくつか場面。
学校祭の準備期間が始まり、生徒たちは休み時間や放課後を利用してせっせと準備に励んでいる。教室で衣装作りに精を出す生徒、多目的室で垂れ幕を作る生徒、大きな板で看板を作る生徒。
○放課後・高校の廊下
千波は数人のクラスメイトと一緒に廊下を歩いている。皆、両手に大荷物を抱えている。(段ボールや模造紙、ペンキ缶や木の板など)
クラスメイト①「本格的な和風喫茶にするならさ、和傘ほしくない?」
クラスメイト②「ほしいー。でも買うと高いよ」
千波「模造紙と竹ひごでそれらしく作れないかな?」
クラスメイト③「それ、いけるかも。試しに1個作ってみよーよ」
わいわいと話しながら廊下を歩いていた千波は、中庭に浩介の姿を見つける。芝生に座り込んだ浩介は、クラスメイトたちに囲まれておしゃべりの真っ最中。
芝生には飲み物やお菓子が広げられており、休憩中という雰囲気。
千波(浩くんだ)
千波は足を止めて、窓ガラス越しに浩介を見つめる。浩介は千波の視線に気付かずおしゃべりに夢中。男子生徒と小突きあったり、女子生徒からお菓子を受け取ったりと楽しそう。
千波は胸にちくりと痛みを覚える。(浩介が自分とは違う空間にいることに寂しさを感じた)しかしその痛みを自覚するよりも先に、少し離れたところからクラスメイトに名前を呼ばれる。
クラスメイト①「千波、どうしたのー?」
クラスメイト②「早く教室に戻ろーよ」
千波「(慌てて)あ、うん」
千波は駆け足で友人たちに追いつく。
千波がいることに気がついた浩介が、中庭からその背中を見つめている。
○下校時刻・校門前
校舎の時計は18時5分を指している。太陽は沈みはじめ、校舎の陰が長く伸びている。
千波モノ『学校祭の準備期間中、生徒は午後6時まで学校にいることができる』
校門前は、帰宅するたくさんの生徒で賑わっている。浩介と下校することにすっかり慣れてしまった千波は、校門付近をきょろきょろと見回すけれど、そこに浩介の姿はない。
千波は校門横の石塀に背中をあずけ、スマホを見る。浩介からメッセージは届いておらず、着信もない。「んー……」とうなり声をあげてしばらく悩むものの、結局、浩介に連絡は入れず歩き出す。
千波(仕方ない、か。学祭期間中はどうしてもクラスの人といる時間が増えるもんね。うちのクラスの男子も、みんなでご飯食べて帰るんだって言ってたし)
通学リュックの肩紐に両手をかけてトボトボと歩く。
千波(浩くん、誰と一緒に帰ったんだろ。ひょっとして女の子かな)
千波モノ『学校祭の準備期間は彼氏彼女ができやすい。気分がわくわくする時期だし、何かと一緒にいる時間が増えるから。「学祭マジック」なんて呼び方をするくらいだ』
千波(もしかして浩くんに彼女ができちゃったりしたら……もう一緒に登下校できなくなっちゃうのかな)
千波は口をへの字に折り曲げ、瞳を潤ませる。(浩介との関係に名前をつける必要はないと結論づけたはずなのに、浩介が離れていってしまうことに悲しみを覚える
)
千波がぐしっと目元をぬぐったとき、後ろから駆けてきた浩介が、千波の手をつかむ。
浩介「ねずみちゃん!」
千波、振り向く。涙の粒が舞う。
千波「(心底驚いた顔で)浩……くん?」
浩介「(息を弾ませて)よかった、追いついたぁ」
浩介はいつものようにニコニコと嬉しそう。泣いていたことがばれないように、千波は浩介から顔を背ける。しかし浩介はめざとく千波の顔をのぞき込む。
浩介「ねずみちゃん、もしかして泣いてた?」
千波「(大慌てで)泣いてない! 目にゴミが入ったの!」
浩介「(素直に)え、大変。見せて」
浩介は両手で千波の頬をはさみ、顔を近づける。至近距離で見つめ合い、千波はドキドキと胸が高鳴る。しばらく無言で見つめあったあと、浩介はへにょりと眉を下げる。
浩介「……よくわかんない」
千波ははっと我に返り、強引に浩介から視線を逸らす。
千波「もう取れたの! 泣いたから!」
そしてドキドキを隠すために早足で歩き出す。間もなく浩介が追いついてくる。
千波「……浩くん、クラスの人と一緒に帰らなくてよかったの?」
浩介は不思議そうに首をかしげる。
浩介「なんで?」
千波「学祭期間中はクラスの人と仲良くなるチャンスじゃん。中庭で楽しそうにしてたから、みんなで一緒にご飯でも食べて帰るのかなって」
浩介、ぱっと表情を明るくする。
浩介「ご飯、一緒に食べて帰る?」
千波「(ガクッと肩を落として)私とじゃなくってさ」
苦笑いを浮かべながらも、浩介がクラスメイトよりも自分を選んでくれたことが嬉しくなる千波。初めて、自分から浩介と手をつなぐ。浩介は驚いた表情を浮かべるが、すぐに幸せそうな笑顔になる。
しっかりとつながれた手のアップ。
千波「ご飯に行くのは明日にしようよ。お母さんに『晩ご飯はいらない』って言っとかないといけないから」
浩介「(嬉しそうに)やったー。何、食べる?」
千波「んー……パスタ」