疎まれ王女は愛されたい

第6話 第二王女の誕生日パーティー

賑やかな人々の声で溢れている王都の道をレティシアとアランは歩きながら会話していた。

「久しぶりの王都だわ!」
「殿下、今日は何処に行かれるのですか?」
「そうね、行ってみたいなと思っていたカフェがあるのよ。最初はそこに行くわ」
「わかりました」



 その頃、ディオルとソレスは執務室で次期国王の件について話していた。

「陛下、次期国王に任命するのは、レティシア王女にするのですか? それともリリアーナ王女ですか?」
「まだ考えている最中だ」
「そうなのですね」
「ああ、」



 茜色に染まる空の下を母親であるティアナと共に歩いていたリリアーナは苛立ちを含ませながら口にする。

「お母様、私はレティシア王女のことが好きになれそうにありませんわ」
「あら、私もよ」
「お母様は私に王になってほしいですか?」

 リリアーナがティアナにそう問い掛けるとティアナは足を止めてリリアーナを見る。

「なってほしいに決まっているじゃないの。リリアーナ、貴方は必ず王になるのよ!」
「わかりました。お母様」



 ラベリア国の王城内の執務室で、ラベリア国の第一王子グイードは自身の近衞騎士エドルにずっと前から気になっていたことを問い掛けた。

「なぁ、エドル、お前はラベリア国の第一王女であったユリアーネ王女のことを知っているか?」
「ユリアーネ王女ですか?」
「ああ、」
「知っていますけど……」

 何故いきなりそんなことを聞いてくるのかとエドルは疑問に思ったが、あえて思ったことを口にはしなかった。

「そうか、エドル、お前、俺に何か隠していないか?」

  じーとこちらを見てくるグイードに対して、エドルはいつもと何も変わらない声色で答える。

「何も隠していませんよ」
「そうか、じゃあ、俺に何か言っていないことはないか?」
「何もありませんよ……」
「エドル、お前、わかりやすいな。顔に出てるぞ。やっぱり何かあるんだな」
 
 どうやら顔に出てしまっていたらしい。
 エドルははぁ……とため息をついてから目の前にいるグイードを見てから言葉にする。

「殿下に話す必要はないと思うのですが」
「エドル、これは命令だ。俺に言っていなかったことを全て話せ」
 
 命令なら黙っている訳にはいかないが、本当はあまり言いたくはなかったなとエドルは心の中で呟いた。

「わかりました。私には娘がおります。その娘はユリアーネ王女と私の子です。そして隣国、アルティリア王国の第一王女であります」
「アルティリア王国の第一王女だと…… まさか、お前の娘ってレティシア王女か?」
「はい、そうです」

「まさか自分に仕えている騎士の娘が隣国の第一王女だったなんてな」



 アルティリア王国の王城から離れた離宮の通路を歩いていたアランはアストリッドに声を掛けられて立ち止まる。

「あれ、君って新しく殿下の騎士になった人だよね?」
「はい、そうです。アランと申します」
「あ、やっぱりそうか。俺はアストリッドっていうよ。よろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」



 その夜、ディオルは中々眠れずにいた。
 ディオルの自室の部屋の窓から見える夜空を見上げて悲しげに呟く。

「ユリアーネ、君の娘を愛そうとしたけど、無理だった。愛せなかった。愛そうとするとユリアーネのことを思い出して胸が苦しくなるんだ…… 俺は本当に最低だな」



 執務室で仕事中のディオルの部屋が2回ほどノックされ、ディオルは部屋のドアの前にいる相手に問い掛ける。

「誰だ?」
「陛下、ティアナでございます」
「入っていいぞ」

 ディオルがそうティアナに告げれば、ティアナは部屋のドアを開けて部屋の中へと入ってくる。

「何用だ?」
「陛下に聞きたいことがございまして。陛下はレティシア王女を次期国王に任命なさいますか?」
「まだ、考えてる最中だ」

 ここ最近、やたらと次期国王の任命の件について聞かれるなとディオルは思いながら、ティアナに対して返答した。

「そうですか、私の娘。リリアーナはとても優秀です。レティシア王女よりも陛下のご期待に添えるかと思います。是非、ご検討下さいますようお願い致します」
「ああ、わかった」
「それでは失礼致します」

 ティアナはディオルにそう言い部屋から立ち去って行く。



 リリアーナの誕生日の日の前日。王城から離れた離宮の中庭をレティシアはアランと歩いていた。

「明日はリリアーナ王女のお誕生日ね」
「そうですね」
「私はリリアーナ王女の誕生日パーティーに出席してもいいのかしら……」
「殿下はパーティーに出席したくないのですか?」

 アランはレティシアがパーティーに参加したくないのかと思い問い掛けたがレティシアは首を横に振る。

「そういう訳ではないけれど、私、多分、リリアーナ王女に嫌われてるかもしれないから」
「なるほど。殿下、俺は思うんですけど、リリアーナ王女がどう思うかよりも、殿下自身がどうしたいかのかが大切だと俺は思いますよ」
「私がどうしたいか。確かにそうね、ありがとう、アラン」



 リリアーナの誕生日の日。レティシアは自身の近衞騎士であるアラン、アストリッドを連れて、リリアーナの誕生日パーティーが行われる会場へと訪れる。
 パーティー会場に入ったレティシアはリリアーナの元へと歩み寄る。

「あら、レティシア王女、来てくれたのですね!」
「はい、リリアーナ王女、お誕生日おめでとうございます」
「ええ、ありがとう。あ、お母様」

 レティシアの背後からやって来たリリアーナの母親であるティアナはリリアーナの前にいるレティシアを見て問う。

「あら、リリアーナ。その方は誰かしら?」
「レティシア王女よ」
「レティシア王女ですって……?」

  レティシアの名前を聞いた途端、ティアナの顔つきは固くなる。

「ティアナ王妃、初めまして、レティシアと申します」
「ええ、初めまして、名前の方知っていてくれてたのね」
「はい、勿論です」

  ティアナのレティシアを見る瞳はとても冷たかった。レティシアはティアナが自分のことを嫌いなのだなと悟り、さっさとこの場から立ち去るべきだと判断する。

「お姉様が来てくれて、わたくしとても嬉しいですわ!でも、お姉様、わたくしお姉様がパーティーに出席するなんて思ってもいませんでしたの」
「そうだったんですね……」
「ええ、お姉様、わたくし、先ほど陛下からお誕生日おめでとうと言われましたわ! お姉様も誕生日の時、陛下から何か言われましたか?」

  リリアーナは見下すような顔でレティシアを見ていた。レティシアはそんなリリアーナの言葉に反応することなく、無言を貫く。

「ダメよ、リリアーナ。陛下はレティシア王女を愛していないのだから、陛下からお誕生日おめでとうなんてきっと言われていないと思うわよ」
「あら、そうなんですの? レティシア王女、可哀想ですわね」
「すいません、私はこれで失礼致します」

 レティシアはティアナとリリアーナに会釈してから、その場から立ち去った。



 レティシアは水を飲みながら、リリアーナとティアナを遠目に見ていた。そんなレティシアの近くにいたアストリッドはレティシアに声をかける。

「殿下、帰りますか?」
「いいえ、もう少しだけいるわ」



 リリアーナの誕生日パーティーが始まり少し経った頃、国王ディオルがパーティー会場に現れる。

「レティシア王女も来られているみたいですね、陛下」
「ああ、そうみたいだな」
 


 パーティーが終わる少し前に会場から出たレティシアは近衞騎士であるアストリッド、アランと共に離宮へと帰ることに。
 レティシアは馬車の窓から見える夜空を見上げてながら悲しげに呟いた。

「私は陛下からお誕生日おめでとうの一言も言われなかったわ…… どうして、私は陛下の娘ではないの…… ?こんな思いをするくらいなら行かなければよかったわ……」
< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop