雨が上がったら
8月1日、午後2時10分
奈々子は予定どおり、コンビニでアイスを引き換えたが、予定外に雨に降られてしまった。
日中は憎たらしいほどに晴れ上がっていた空が、1時55分頃外に出ると、遠くでゴロゴロ鳴り始め、不吉なグレーになっていて、「ありゃ…」などと思っているうちにぽつぽつと雨粒が落ち、たちまち強く降り始めた。
引き換えたアイスはもともと近くの公園で食べるつもりだった。
幸い公園には屋根のある“あずまや”があったので、あそこで雨宿りすればいい。
時間帯のせいなのか、もともといた人たちが空色や雷鳴に反応して逃げたのかはいざ知らず、誰もいなかった。
時間つぶしなら、塾のテキストも筆記用具もスマホもある。
こういう時間を利用して復習するのも悪くない。
奈々子は木の匙でアイスに切れ込みを入れ、大きめにすくって口に入れながら、数学のテキストを開いた。
(んーーーっ。鼻にくるっ)
「カップアイスの最初の一口は、できるだけ大きな口を開けて食べる」というのが奈々子の好きな食べ方だった。殊に気温の高い季節は、まごまごしているとすぐに溶けてしまうから、物惜しみするくらいなら、じゃんじゃん口に入れるに限ると思っていた。
口中の甘さと冷たさを堪能しながら、形ばかりテキストに目を落としていると、走るテンポでざっざっざっとこちらに近づいてくる足音がした。
白い半袖シャツに黒いスラックスだから、遠くからでも夏の標準服を着た中学生か高校生と分かる。多分、雨宿りのためにこちらに向かっているのだろう。
奈々子は知らない人と2人で同じ空間にいるのは気づまりだなあ…と思っていたが、その人物の顔を見た途端、別な意味で困惑を覚えた。
その少年は、奈々子と同じクラスの田村朔也だった。
「田村…くん」
「おっ。先客がいると思ったら園部だったのか」