雨が上がったら
それぞれ語り【一人称】
◆奈々子◆
塾、友達と一緒のところに行きたかったけど、気付いたらママが、自分の知り合いのいるところに勝手に申し込んじゃった。
場所は学校から近いけど、「レベル高そうだからやめたんだよね」ってみんな言ってて、実際私、けっこう背伸び状態で頑張ってる。
友達と一緒の塾だったら、こういう講義終わりの寄り道も、友達と一緒だったと思う。
ひとりだったから、たまたま雨宿りの朔也君と会って、アイスクリームを分けてあげられた。
でも、本来は「そういうの」も苦手なんだ。
女の子相手なら、自分の食べさしや飲みさしを勧めるのも平気だけど、男の子相手だと、絶対「間接チューだ!」とか言うヤツがいる。本人だったり、周囲だったり。
「そこなの?」って思われるかもしれないけど、せめて「間接キス」って言ってよね。「チュー」っていう響き大嫌いなんだ。
「キス」って言葉を恥ずかしがって「チュー」って言うやつとは、ぜったい相容れないと思う。
話それたけど、そういうのを「え?別に意識してませんけど?」みたいな態度をとらなきゃいけないのもしんどい。別に潔癖症とかじゃないけど、気にするに決まってんじゃん。
意識したら自意識過剰って思われそうなのが悔しいし、意識してないふうを装うのも面倒くさいしきつい。「行くも地獄、戻るも地獄」なんだ。
何とも思っていない男子が相手でも、多分そう思うよ。
もっとも、何とも思ってない男子だったら、話しかけもしないし、アイスも勧めないけどね。「雨さっさと止め!」って思うだけ。
▽▽
私は友達と話してると、時々「あんたって面倒くさい」って言われる。
自覚はあるけど、仕方ない。
例えば「素数は好きだけど、26とか34とか、結構大きめの素数を2倍しただけの数が苦手」って言ったら、何言ってんだおめーって顔された。
わかんないよ。理由なんかないけど苦手なんだもん。
深層心理を深掘りしてみよう、とか言い出されても面倒だけど、そういう「理由はないけど何かキライってものくらい、誰でもあるでしょ?」って言ったら、「虫苦手。気持ち悪い」とか「子供はうるさいから嫌い」とか、理由付きで言われ、一層、消化不良が悪化した。そういうんじゃなくてさ…。
▽▽
そんな私が、苦し紛れとはいえ朔也君にアイスを勧めて、おいしそうに口に運ぶ姿を見て、「言ってよかった」とだけ思えた。
朔也君は、こんな面倒くさい女は嫌いかな?
それとも…
「ごちそうさん、うまかった」
「…ども」
「雨、また降りが強くなったなあ…」
「夕立だし、そのうち止むよ」
「夕…っていうには時間早くね?」
「夏場の午後から夕方にかけてのにわか雨、みたいな意味だから」
「そうなの?これは勉強になった」
「…だったと思う」
「俺の名前の意味も知ってたし、園部って物知りだな」
「そんなこと、ないよ…」
そんなことをケロっという朔也君の方が、実は成績はずっと良い。
塾の夏期講習には行っていなくて、今日もたまたま学校に用事があって近くにいただけらしい。
◆朔也◆
学校からの帰り、突然ざーっと振り出しやがった。
ゲリラ豪雨ってやつ?勘弁しろし。
雨宿りしようと思って行った公園のあずまやで、同じクラスの園部がアイス食ってた。制服着てるしテキストみたいなの見てたから、塾の帰りとかか?
園部って生真面目だけど、時々突飛で興味深いことを言う(ほぼほかの女子との会話の盗み聞きだが)。
正直言って、何か気になる子だ。
いいチャンスだから話しかけようって思ったが、いつだったか耳に入った「素数を2倍した数」の話とか、「負けず嫌いって言葉、本当は「負け嫌い」か「負けず好き」だよね?」って話とか、ネタはあれこれ浮かぶのに、いま話題として出すのはちょっとなあって思って、気付けば「いいもん食ってんな」なんて声かけてた。
園部は俺のこといやしいって思って呆れたかもしれないのに、半分以上残ってたアイスを分けてくれた。しかも俺に気を使って(多分)「1カ月早い誕プレ」だってさ。
やっぱいい子だな、うん。アイスもうまい。
途中で「あれ、これって間接…」とか気付いたけど、そういうこと言う男子はキモいだろうから、黙っとく。
塾、友達と一緒のところに行きたかったけど、気付いたらママが、自分の知り合いのいるところに勝手に申し込んじゃった。
場所は学校から近いけど、「レベル高そうだからやめたんだよね」ってみんな言ってて、実際私、けっこう背伸び状態で頑張ってる。
友達と一緒の塾だったら、こういう講義終わりの寄り道も、友達と一緒だったと思う。
ひとりだったから、たまたま雨宿りの朔也君と会って、アイスクリームを分けてあげられた。
でも、本来は「そういうの」も苦手なんだ。
女の子相手なら、自分の食べさしや飲みさしを勧めるのも平気だけど、男の子相手だと、絶対「間接チューだ!」とか言うヤツがいる。本人だったり、周囲だったり。
「そこなの?」って思われるかもしれないけど、せめて「間接キス」って言ってよね。「チュー」っていう響き大嫌いなんだ。
「キス」って言葉を恥ずかしがって「チュー」って言うやつとは、ぜったい相容れないと思う。
話それたけど、そういうのを「え?別に意識してませんけど?」みたいな態度をとらなきゃいけないのもしんどい。別に潔癖症とかじゃないけど、気にするに決まってんじゃん。
意識したら自意識過剰って思われそうなのが悔しいし、意識してないふうを装うのも面倒くさいしきつい。「行くも地獄、戻るも地獄」なんだ。
何とも思っていない男子が相手でも、多分そう思うよ。
もっとも、何とも思ってない男子だったら、話しかけもしないし、アイスも勧めないけどね。「雨さっさと止め!」って思うだけ。
▽▽
私は友達と話してると、時々「あんたって面倒くさい」って言われる。
自覚はあるけど、仕方ない。
例えば「素数は好きだけど、26とか34とか、結構大きめの素数を2倍しただけの数が苦手」って言ったら、何言ってんだおめーって顔された。
わかんないよ。理由なんかないけど苦手なんだもん。
深層心理を深掘りしてみよう、とか言い出されても面倒だけど、そういう「理由はないけど何かキライってものくらい、誰でもあるでしょ?」って言ったら、「虫苦手。気持ち悪い」とか「子供はうるさいから嫌い」とか、理由付きで言われ、一層、消化不良が悪化した。そういうんじゃなくてさ…。
▽▽
そんな私が、苦し紛れとはいえ朔也君にアイスを勧めて、おいしそうに口に運ぶ姿を見て、「言ってよかった」とだけ思えた。
朔也君は、こんな面倒くさい女は嫌いかな?
それとも…
「ごちそうさん、うまかった」
「…ども」
「雨、また降りが強くなったなあ…」
「夕立だし、そのうち止むよ」
「夕…っていうには時間早くね?」
「夏場の午後から夕方にかけてのにわか雨、みたいな意味だから」
「そうなの?これは勉強になった」
「…だったと思う」
「俺の名前の意味も知ってたし、園部って物知りだな」
「そんなこと、ないよ…」
そんなことをケロっという朔也君の方が、実は成績はずっと良い。
塾の夏期講習には行っていなくて、今日もたまたま学校に用事があって近くにいただけらしい。
◆朔也◆
学校からの帰り、突然ざーっと振り出しやがった。
ゲリラ豪雨ってやつ?勘弁しろし。
雨宿りしようと思って行った公園のあずまやで、同じクラスの園部がアイス食ってた。制服着てるしテキストみたいなの見てたから、塾の帰りとかか?
園部って生真面目だけど、時々突飛で興味深いことを言う(ほぼほかの女子との会話の盗み聞きだが)。
正直言って、何か気になる子だ。
いいチャンスだから話しかけようって思ったが、いつだったか耳に入った「素数を2倍した数」の話とか、「負けず嫌いって言葉、本当は「負け嫌い」か「負けず好き」だよね?」って話とか、ネタはあれこれ浮かぶのに、いま話題として出すのはちょっとなあって思って、気付けば「いいもん食ってんな」なんて声かけてた。
園部は俺のこといやしいって思って呆れたかもしれないのに、半分以上残ってたアイスを分けてくれた。しかも俺に気を使って(多分)「1カ月早い誕プレ」だってさ。
やっぱいい子だな、うん。アイスもうまい。
途中で「あれ、これって間接…」とか気付いたけど、そういうこと言う男子はキモいだろうから、黙っとく。