私は蕾になる
オープニング
 まるで天まで届きそうなそのビルは、石ころにも満たない大きさの私を、静かに見下ろしている。
 そのビルに吸い込まれるかのように入っていく少女達。皆、自分の目指すものを信じ、だけど時に傷つき、それでもここに辿り着いた。
 芸能界に全くの無縁だった私でも、今日がいかに人生を変える一日になるか、なんとなく実感し始めている。仮にオーディションに落ちたとしても、私はここに来るまでの日々を悔やんだりはしない。
 いや、絶対に落ちたりするものか。だってそう、私は……。
 私は胸に手を当て、目を閉じる。そしてここに来るに至った理由を胸の中で反芻した。
 そうだ。私はあの人みたいになりたいんだ。外の世界を恐れていた私を救ってくれた、あの人のように。
「……よし」
 私は目を開けると、一歩を踏み出す。先程は慣れない都会に来たことと、これから入らなくてはいけないビルの荘厳さに気圧されてしまっていたけど、そんなの私らしくないから。
 オーディションの合否は、今日その場で聞かされる。『コノハの好きなチキンライスを作って待っているね』と言ってくれたお母さんのためにも、良い結果を持って帰らなくちゃ。
 絶対に、オーディションに落ちたりしない。
 だって私はアイドルになるんだから。
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