運命なんていらない

あの人と同じ眼

月曜日の朝。私は真奈美と交差点で合流し、一緒に登校した。

主に話題は、昨日のテレビに出演していた人気アイドルのことだ。

2人でキャーキャー騒ぎながら、通学路を進む。

彼がこの世に生まれてきてくれたことを神に感謝し始める頃、私たちはもう学校についていた。

「あ、華美くんだ。」

真奈美が廊下を歩きながら、5mほど先で2、3人の男子と話している華美くんの存在に気づいて声を上げる。

私も、真奈美の声につられて華美くんの方を見た。


目が合う。


その瞬間、私は彼の目に吸い込まれるような錯覚を感じた。

私は知っている。彼のあの瞳を

この世の全ての闇を閉じ込めてしまったようなそこの見えない漆黒の瞳。

自分の呼吸が止まっていることには気づけなかった。

段々と生徒たちの話し声が遠のいていき、私の耳には、壁を強く打ち付ける雨の音しか聞こえなくなっていた。

あの日の記憶が蘇りそうになる。

苦しい。息ができない。誰か助けー

「ちょっと空羽?急に立ち止まってどうしたの?大丈夫?」

今にも膝から崩れ落ちそうになったとき、真奈美の凛とした声が聞こえて一瞬でこちらの世界にもどってこれた。

ゆっくりと、自分を落ち着かせるために深呼吸をする。

目の前には、私を心配する真奈美の顔があった。

「ごめん、ごめん。華美くんがイケメンすぎて心臓止まってた。」

真奈美の心配を取り除くために、私は無理やりぎこちない笑顔を作って、冗談を返した。

「なんじゃそりゃ。とりあえず、席に荷物置きに行こ〜今日は特に、カバンが重いし。」

先に歩く真奈美を追いかけながら、後ろを振り返ると、華美くんは、もうそこには居なかった。
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