夏服に着がえて

プロローグ

 おろしたてのノートの1ページ目に、慣れない万年筆でこう書いた。

「風の強いこの街で お気に入りのワンピースのすそをなびかせたい」



 …などという「青春の夏」は、私には絶対に訪れない。

 例えばだね…

 夏の日差しは銀色だ。
 あまりにもまぶしすぎて 体中に刺さる。

 一瞬にして風景が反転したように真っ暗になったと思ったら、それは目にささった銀の破片のせいだった。

 何も見えないけど、多分、周囲に助けてくれる人が誰もいないことだけは分かる。
 私ひょっとして、このまま死ぬのかなあ…。
 まだ15年しか生きていないのに、何かろくなことなかったなあ。

 保温保冷ができるポットの内側って見たことあるでしょ?
 あれが落下とかの衝撃でガシャンと景気よく割れて、粉々になったら、多分そのイメージに近い。
 そんなふうになったポットは、もう液体を格納しておくことができない。
 壊れたのは内側のはずなのに、ちょっと汚い表現をすると、「おもらし」みたいに外に漏れ出す。

 要するに私はポットの中の住人なのだ。

――こんなのの方が、イキがってて意味不明だけど、まだ私には似合いのはずだ。

 志望校に入れるか微妙。

 両親はケンカばかり。

 好きな人は別な人が好き。

 15歳の少女(オンナ)にとっては、この三つがそろっただけで絶望しかない。
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