夏服に着がえて

エピローグ


 私は真中君のことが好きだと意識してから、みやびちゃんに対して複雑な思いを抱いたけど、当のみやびちゃんが真中君をどう思っているのかは知らない。
 小学校の頃から仲よかったし、嫌いでないことは確かだけど、ただの友達なのか、それとも…なのかまでは分からない。
 だったら、「ちょっとちょっと、どうなのよ?」と突っ込んでみたい気もする。

 もし2人が両思いなら、潔く負けを認めたい。
 みやびちゃんも真中君も大好きだから、「これはいいこと」なんだ。
 でも、失恋ってきっと、ちょっと悔しくて悲しいんだろうなとは覚悟しておく。
 そうだ。マチャにでもやけ食いに付き合ってもらおう。

 父と母をどちらも軽蔑して、嫌いって思ったけれど、何とか見直すことができた。
 父はまた仕事に慣れてきた頃、ひがみっぽい愚痴を言うかもしれないし、母もそれで不愉快な顔をするかもしれないけれど、大人ってきっと「そういうもの」なんだろう。

 みやびちゃんのイケメン父こと久賀先生は、女性のご趣味が安定しないみたいだ。
 歯が痛くなったら、何だかんだで久賀先生のお世話になるだろうけど、あのオネエサンが受付だと思うとちょっと萎える。しっかり歯磨きしなくちゃ。

 みやびちゃんは多分、あのお母さんみたいな「かっこいいおばさん」になるに違いない。
 美人で優しいサバサバ系。理想的すぎない?

◇◇◇

 ああ、そうか。結構いろいろ見えてきた。
 私は目に銀の破片が刺さった、ポットの中の住人なんかじゃなかった。
 
 炎天下できらきら光る波を見ながら、夏の浜風にワンピースの裾をなびかせることができた。

 今年も甲子園では球児たちがそれぞれに奮闘した。
 少し前に読んだ高校野球の漫画で「半分は一回戦で負けるんだ」という言葉があった。
 そんな残酷な現実の前でも、みんなカッコイイなと思える。

 安曇よしのはとっても魅力的な女優で、親子ほど年の違う映画監督と真剣交際中らしい。
 ネットニュースで写真を見たら、ちょっとお似合いだと思った。
 年の差交際や年の差婚にやたら厳しい人っているけど、同じ大人でも「若い大人」と「魅力的に年取った大人」と「無駄に年取っただけの大人」がいるんだなって、何となく分かる。

 母が「みやびちゃんと連絡取ってる?」と言ったときの様子から察するに、女の友情はわかりにくいけど、捨てたもんじゃない(多分)。

 要するに。

 私の15の夏は、なかなか実り多かったし、キラキラ輝いていた――と振り返れる程度には、みっちりした季節だった。

【了】
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