いばらの塔のエリオット

お仕置き

 漆喰塗りのような凹凸がある壁を、光の筋が照らす。
 明るくなったことに気がついたメリは、ゆっくりと目を開けた。

「朝……。うわっ、私、なんてことを」

 メリの目の前にあったのは、すやすやと寝息を立てるエリオット王子の姿だった。
 激しい変化の跡を示すように、彼の着ていた服はボロボロに裂けている。しかし不思議と、体に傷は残っていない。

「うっかりあのまま寝ちゃった……しかし、本当に綺麗な顔」

 光を受けて輝く白髪。みずみずしく透明感のある肌。絹糸のような白いまつ毛は、マッチ棒でも乗せられそうに長い。こんなにも美しい人が、身勝手な王のためにこんなところに閉じ込められていることが、メリには腹立たしかった。忌むべきは彼の存在などではないだろうに。

 しばし見惚れていたが、このままこうしてもいられない。使用人の朝は早いのだ。

「さて、仕事をしなくちゃ」

 なるべく布団を持ち上げないように、ゆっくりと起き上がる。
 王子を起こさないように、彼に背を向け、ベッドの淵に座り床に足を着けたのだが。ぐい、と腕を掴まれ、ベッドに引き戻された。

「きゃ」

「待て、行くな」

 低く、心地よい声の主の方を向く。濃紺の瞳が、メリをとらえていた。

「あら、起きてらしたんですね」

「ここにいろ」

「いえ、でも、身支度をしなければなりません。王子の朝食もとりに行かないと」

「まだ時間はあるはずだ。夜が明けてからそんなに経っていない」

 筋肉質な両腕で腰を絡め取られる。すぐ近くに、深海のような瞳が迫ってくる。
 しばしの沈黙。愛おしそうにこちらを眺めるまっすぐな眼差しに、メリは耐えかねて視線をそらす。

「メリ、俺はお前が好きだ。お前の気持ちを聞かせてほしい」

「え、えええ」

 ––––まっすぐすぎる。若いってすごい。

「そんなこと急に言われましても」

 まだ、気持ちの整理がついていない、と言ったら怒られるだろうか。
 何せ、こちらから王子に、あんなことやこんなことをしてしまっているのだ。
 ここで「別に好きではありません」なんて答えたら、「体目当てだったのか」という話になってしまう。

 ぐるぐるとそんなことを考えていると、王子は怪訝そうな顔をして口を尖らせる。

「どうしたんだ。言えないのか」

「いや、まあ、その……嫌いではありませんし、好きではあるとは思うのですが。ラブ寄りのライクというか」

 そもそも出会ってそんなに経っていない。一緒にいた時間は短くても、濃い時間ではあったのは間違いないが。
 どちらかというとメリは、恋愛感情を抱くのに時間のかかるタイプだった。はっきりと言ってしまえば、「まだわからない」が答えになってしまう。

「なんだそれは」

「ええと……」

 困った。どう答えたものか。
 するとメリの心中を押し測ったように、王子は言葉を続ける。

「まだ、わからない、ということか」

 王子の視線が痛い。

「……はい。いや、好きではあると思うんですけど」

 言い訳じみた言い方をすると、彼は眉間に皺を寄せた。

「あんなことを俺にしたのにか」

「う。はい。ちょっとした出来心で」

 正直に白状してしまった。情けない顔で、しおしおと顔を布団の中に沈めると、王子の指が顎に添えられる。

「許さない」

 王子の言うことはごもっとも。高貴な身分の方に、一使用人が猥褻行為を働いたのだ。処罰されて然るべし。メリは身を固くして、心から詫びた。

「申し訳ございません……どうぞ、処罰を」

「責任をとってもらうぞ」

「はい……」

 その瞬間、生温かい感触が唇の上に広がった。目の前には彫刻のように美しい王子の顔がある。啄むような口付けが繰り返され、ゆっくりと離れていくと、王子は薄く息を吐き、目を開いた。

「俺がどれだけお前に惹かれているかを、その身で味わってもらう」

「ええっ。ひゃっ」

 王子は獣のようにメリの上に覆い被さり、彼女の両手をベッドの上に自らの手で縫い付けた。唇を貪るように舐められ、吸われ、徐々に息が上がっていく。

「メリが俺を好きになってくれるまで、何度でもこうする」

「え、いやいや、ちょっと」

 ––––なんて強引な。いや、先に手を出したのはこっちなんだけども。

 一度唇を離すと、王子は意地悪くメリに微笑んだ。天使が一転、悪魔の顔をしている。

「王子、何を……」

「君が俺を、欲しいというまではしない、でも」

 耳元に、しゃぶりつくように舌が這わされる。

「ああっ」

「果たして、我慢できるかな」

 ねっとりと生温かい感触が、耳を、首筋を這い回る。メリの頬は上気し、蜜壺が潤み始める。いつの間にか広げられた胸元からは、乳房がはみ出し、王子のゴツゴツとした手に揉みしだかれていた。すでに起き上がり始めた蕾の根本は、中指と薬指に挟まれ、グニグニと絞られている。

「はあっ、ああっ」

「声を抑えるな、もっと聞かせろ」

「あっ、ああ」

「もっとだ」

 言葉とは裏腹に、王子の手つきも、舌使いも、全てが優しかった。しかし快楽から少しでも逃げようとすると、メリの「良い」ところをすぐさま把握し、刺激し、蕩けさせようとする。

 耳孔に、ざらざらとした舌の感触が入り込んでくる。両手は胸の突起に添えられ、緩急をつけられながら捏ね回されていた。

 どれくらいそうされていただろうか。
 体が紅に染まり、目の前がチカチカする。
 全身を散々弄ばれ、熟れきった花弁に指が到達する頃には、そこはトロトロにとろけていた。

「あっ、ああ! 王子、だめ! だめです!」

「エリオット」

「あ、あう」

「エリオットと呼んでくれ」

「ああっ、エリオット、いやあ」

 グリグリと、腫れ上がった淫芽を指で刺激されると、次から次へと蜜が溢れる。たまらず腰をくねらせると、王子の口から嘲笑が漏れる。

「物欲しそうな動きをして。そんなにここがいいのか」

「ああっ、エリオット、許してえ……」

「許さない。もっと感じるんだ」

 エリオットはそう言うと、メリに見せつけるように長い舌を垂らし、舌先で蕾を弄び始める。もう一方の頂は指先で摘まれ、くりくりとこねられていた。

「見ろ、ずいぶんと硬くなっている。気持ちいいんだな」

「いやあっ」

「目を逸らすな、見ろ」

 メリはもう、涙目だった。気持ちよくて、頭が真っ白で。
 お腹の奥が、びくびくと震えている。
 王子は恍惚とした表情でメリの卑猥な表情を見ながら、両の蕾を弄んだまま、太い指を蜜壺の入り口に当てる。

「はあっ、いや、全部、一緒は、だめ……」

 メリの懇願も虚しく、少しずつ少しずつ、王子の指がメリの中へと差し入れられた。
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