くじらの子守唄

久白(まさか本当に子守唄で寝れるなんて…曲野君あなた、どこまでいるかちゃんみたいな反応を…!)

 同級生男子が二歳の姪っ子に見えて仕方がない久白。
 しかしじっと見て、仰向けになったことで前髪がずれて綺麗な顔が見えているのを直視して視線を逸らす。立ち上がって距離をとった。

久白(…じっくり見たらやっぱり同年代男子だった…)

 急に恥ずかしくなって赤面する久白。しかし小さく唸る曲野は、眠れたが寝苦しそう。心配そうに再び近付く。

久白(寝たけど、なんか苦しそう…)
久白(…思いがけず、子守唄ですぐ寝たけど、眠れないって話は本当なんだろうな…目元のクマすごい。ほぼ初対面の同級生を頼らなくちゃいけないほど眠れないなんて…)
久白(具合も悪そうだったし、寝てくれて良かったけど…やっぱりまず病院じゃないかなぁ…)
久白(…というか、ソファで寝るの、窮屈そう)

 ソファから足がはみ出している。

久白(せっかく眠れたのに身体が痛くなりそう。でも曲野君の部屋どこかわからないし、わかっても運べないし…そういえば親は海外って言ってたから、運んで貰うこともできないや。やっと眠れた曲野君を起こすのも可哀想だし…って、待って?)

 色々考えていた久白だが、ふと大事なことに気が付く。

久白(曲野君が寝ちゃったら…私、帰れなくない!?)

※戸締まり。

久白(え、どうしよう。勝手に帰ったら鍵が…でも寝不足の人を起こすのは…!)

 寝付いた子を起こすととてもぐずって大変だ、と姪っ子で経験している久白。その姪っ子が、泣きながら姉に訴えたことを思い出す。

久白(…)

 小さく唸りながら眠る曲野を見下ろし、頭を抱えて苦悩する久白。

久白「…仕方がない、なぁ…」

 ため息を吐いて、再びソファの隣に膝を着く。

久白(うちも親、今日遅いし…取り敢えず、起こすのは待ってあげよう)
久白「起きて誰もいないと、びっくりしちゃうしね…」

 姪っ子が訴えた「何で起きたらおかーさんいないの!」を思い出し、起きるまで傍にいようと決める。
※曲野への対応が二歳児。

久白(九時までに帰れたらそれでいいや!)

【プランクトン】さんのゲーム実況リアタイするんだー!

久白(それにしても親が海外とか、曲野君って意外といいとこの出だったんだ。お家広いし、家も広いし、もしかしてお手伝いさんとか来るのかな。さすがにこの広さ、一人で管理するの大変そうだけど…)

 リビングを見渡して、キッチンに目を向ける。ダイニングキッチンには、大きな冷蔵庫が見えた。
 好奇心からキッチンを覗き、広さに感激。

久白(すごい作業台が広い。IHコンロ四つもある。でも…なんか埃っぽい?)

 あまり使われた形跡がない。

久白(…曲野君、睡眠どころか…ちゃんと生活できてる?)

 ちょっと不安になる久白。冷蔵庫はさすがに失礼になるから開けなかった。とても気になったが、さすがに。

久白(気になるけど…私があれこれ気にするのもお節介だよね。取り敢えず、曲野君が起きたらすぐ帰ろう。一時間経っても起きなかったら、心を鬼にして起こすんだ)

 そう決めて、それまでの間、宿題して【プランクトン】さんの曲を聴き倒そうと静かに活動開始する久白。健やかに眠る曲野。
 時刻は17:30分を示していた。
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