意地悪な先生と過ごす夏休み
7
瞳に刺さる夕陽が眩しい午後六時。巧は刺さり続ける視線に捕まったら面倒で、直視しないようにしているのだが、転びでもしたらさすがにかわいそうなので、ため息をついて言った。
「さっきから、なに?」
「なんでもないです」
「前を見て歩けよ。転ぶぞ」
「ふふ。はい」
「楽しそうだね」
「それはこれからです。今はわくわくしているんです」
「あっそう」
「天気もいいしほどよい風もあります。今夜の花火は綺麗ですよ」
「そんなに花火が好きなのか」
陽菜はにっこりと笑って、先日買ったばかりの下駄をカラコロと鳴らす。河川敷を並んで歩くと、犬の散歩でもしているようだった。巧のいつものペースで歩けば、走ってついてきそうで恐ろしい。今日くらいは気にかけてやろうと、こうして隣に位置しているのだけれど、どうにも歩行速度が遅すぎる。
「おい。だいぶゆっくりだけど、時間はいいのか」
「だって、浴衣だから動きづらいし」
そう言いながら、指先で裾をちょんと摘んだ。白地に、青が基調の淡く上品な撫子が、流れるように咲き誇る。そんな風流な浴衣は、目立つ包帯が自然に隠れて都合がいい。
合わせてチークとリップグロスがほんのり色づくと、普段の子供っぽさは半減。肩までの黒髪を一生懸命編み込んでまとめ、なんとか作り上げたアップスタイルも、新たな一面なのだが。どうしても、可愛らしいという言葉が似合うのは、丸い顔に丸い目に純粋そうな雰囲気にと、角がないからだろう。
巧はそんなことを考えながら、横目に気を配る。慣れてないから早く歩けないなどと、ブツブツ言い訳をしていた陽菜は、突然悩ましげに黙りを決め込んだ。それから頬を赤らめて、まさかの上目遣い。まとめ髪のおかげで露骨に見えたその表情は、なぜか艶っぽくて巧は正直驚いた。
「嘘です。本当は、巧さんとふたりだけがいいんです」
「角がなさすぎて心配だ」
「カド?」
「うん。こっちの話」
熱烈な佐野の片思いを余所に、呑気な奴だと巧は思う。親友の付き添いとは言え、せっかく久しぶりに友達と遊べるのだから、少しくらい巧をないがしろにしたって怒らないのに。ましてやこういうイベントは同世代で盛り上がったほうが楽しいだろう。
そんな自分は、昨年は家のベランダから缶ビールを片手に夜空を眺めていたことが蘇る。月並みに綺麗だなと頷きつつ、一缶空ける頃にはもう飽きて、部屋に戻り枝豆をつまむ。二本目を開けて不定期に響く振動を感じながら、なんの本を読んでいたっけと首を傾げた。
首を傾げた先に見えた隣を歩く陽菜は本当に楽しそうで、自分が言うのも変だが幽霊から離れて気晴らしすることをお勧めしたほうが良いだろうかと、巧はまた首を傾げて考えた。
「ふたりだけって、お前な。普段こそふたりだけだろうが」
「それとこれとは違うんですよ。特別感が!」
「単純だな。取り憑いたのがお前みたいな奴でよかったよ」
「取り憑くだなんて。巧さんにそんなダーク感ないですって」
アハハと手を叩いて笑った陽菜にとって、完全に巧は楽しい遊び相手に墜ちているのだろうか。今のうちに上下関係を再教育しておかなくてはと、目論んだ矢先。残念ながら陽菜ご希望のふたりだけはそう長く続かなかった。
「陽菜ー!もう、遅いよ!みんな待ってたんだからね」
「茜、ごめーん」
姿を確認した途端、若者は遠距離で叫び合う。それから駆け寄ってきたのは、同じく浴衣を着てめかし込んだ茜だった。へらつきながら適当な謝罪をしていた陽菜は、茜との距離が縮まり姿を確認すると、感嘆の声をあげ笑顔を見せる。
「わぁ!茜、浴衣似合ってるよ。大人っぽい」
「本当?ありがとう。せっかく佐野先輩と行けることになったんだし、思いきって新しいの買ったんだ」
「メイクもばっちりだね」
「もちろん!っていうかのんびりしてないで行くよ」
「待って、もっとゆっくり……」
「早くっ!」
もたつく陽菜の腕を取り、問答無用で拉致していく一連の動きは、驚くほどの鮮やかさ。勢いにのまれながらも、巧を気にして視線を送る子犬のような目に、やれやれと肩をすくめた。
「わかりやすい女」
過酷な話だ。なついているだけなのか、それ以上なのか、わからないほど巧は疎くない。このまま彼女設定にのっとり、陽菜の気持ちが進展していったとしたら、気狂いしたっておかしくはない。さすれば彼女はエリスさながらに、生ける屍となるだろう。
「あぁ、これだ」
昨年読んでいた本を思い出してつぶやいた独り言は、誰かに聞かれることはなく、ただただこれからが嘆かわしかった。振り返った陽菜が送った視線に応え、巧は少し遠くを見るように目を細めた。
陽菜は素っ気ない言葉しか返ってこなくても、呆れたそぶりをされても、巧から感じる優しい雰囲気に心が熱くなっていた。
(今日はなんだか本当に、恋人みたい)
いつも追うように歩いていたのに、見上げればすぐそこにある巧の横顔。照れ臭くて、嬉しくて、笑顔が止められないのは当然だった。邪魔をしてくれた茜に文句のひとつも言いたいところだが、同士の胸中を察すると愛想笑いしかできない。
陽菜を連れた茜は元気に佐野に向かって微笑んだ。
「お待たせしましたー!陽菜連れてきました」
「こんばんは、遅れてすみません」
軽く頭を下げた陽菜に、佐野とその隣にいた友達はやわらかく頷く。
「相沢さんだよね、俺は佐野の友達の広瀬(ひろせ)です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
茜からダブルデートだと聞いていたせいで、気恥ずかしさが込み上げる。けれども陽菜同様にただの付き添いで、相手にはそんなつもりはないかもしれない。深く意識しないようにしようと呼吸を整えた。
なにより、巧に誤解されたくはない。気になって視線をさ迷わせ彼の姿を求めるが、それは佐野によってさえぎられてしまう。
「相沢さん、浴衣姿、綺麗だよ」
「えっと、ありがとうございます」
よくある社交辞令だとわかっていても、この姿で一番に言われたい言葉でも、言ってほしかった人ではなくて陽菜は眉尻を下げる。不満は茜にもあったようで、唇を尖らせていた。
「佐野先輩!私も浴衣ですよ?」
「うん、もちろん綺麗だよ」
茜の後ろに一歩下がり小さく息を吐く。その浴衣はインパクトのある鮮やかな牡丹を黒地が引きしめていて、それを着こなせる茜の大人びた容姿を心底羨んだ。
「ほめられてよかったな」
ヌッと横から顔を覗かせた巧に、陽菜は心臓に悪いと小言を言いながらも、キュッと下唇を噛んで瞼を伏せる。
「今日の茜、すごく綺麗じゃないですか?」
「は?」
「せめてもう少し髪が長ければ、大人っぽいアレンジできたのかな」
キョトンとした巧の横で自分の前髪をいじり、どうしようもないことを吐き捨てる。ショートボブの右サイドに大きめの花が咲く茜を見て、巧は不思議そうに小首を傾げた。
「親友のほうが短いが」
「でも、似合ってるし大人っぽいです。比べて私は幼く見えるでしょ?」
「否定はしないけど」
「だから女性らしい雰囲気の、百合とか牡丹がメインの浴衣に憧れても、叶わないんです」
「別にその浴衣も悪くないだろう?」
「この柄が嫌なわけではないですよ。ただ」
言い淀む陽菜に、ますます傾げた首と困惑の表情の巧は、ほどなくして答えを導き出したよう。閃いたとばかりにポンと手を打った。
「なるほど。お前の理想は立てば芍、薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花か」
理解に苦しみ顔をへしゃげ始めた陽菜に、巧は、簡単に言うと美しい女性を花に例えた言葉だと教える。
「どの花も浴衣の柄では王道ですよね、うん。そんな大人の女性に近づきたかったんです」
「なんで急に大人目指してんの?佐野に褒められたんだから、いいじゃん」
「先輩よりももっと大人に褒めてもらいたいお年頃なんです」
「あぁ、はいはい。恒例のお年頃ね」
「面倒臭そうに言わないでください」
つい頬を膨らませてしまった陽菜が、理想の女性になれるのはいつの日か。クスクスと笑う巧から、ふんっと顔を背けるが、彼はわざわざ陽菜の顔を覗き込んで言う。
「俺も綺麗だと思うよ」
そう言って、夏の夜風のようにふわりと微笑んだ。そんな巧の顔を間近で見て頬を赤らめた陽菜に、今度は真顔で両目を細める。
「浴衣が、ね」
「なっ、じゃあ、やっぱり着る人の問題ですね!」
「あぁ、そうなるな」
騙された騙されたと脳内で繰り返し、肩をわなわなさせ怒りを滲み出す。巧は、佐野よりもっと大人が特定の人で、さらに自分だとわかったうえで、からかっているのだろうか。どちらにしても、着る人の問題だとすんなり頷いたからには、もう陽菜の心を鎮める余地はなかった。
怒りと恥ずかしさを頬に溜め、膨らませていると、巧はお腹を抱えて笑いを殺しながら遠くの屋台を指差した。
「お前の頬、あれみたい」
「リンゴ飴?」
意図を察しギロリと睨みつけようとしたが、同時に視界に入ったある屋台に陽菜は思わず我を忘れた。
「わ、わたあめ!」
屋台が軒を連ね多くの人が賑わうひとつにある、ふわふわのスイーツ。陽菜はこれが大好きだった。
「巧さん、わたあめです!買ってきます」
「え?」
陽菜は続けて茜たちに向かって言い、走り出した。カツカツと下駄を鳴らし駆け寄る陽菜を信じられないという顔で巧は追いかける。
「お年頃はどうした?大人の女性には程遠いぞ」
「大人の女性なら、美しくわたあめ食べると思いません?」
「俺は見たことない。さっきのしおらしさは?がっつりお子様じゃないか」
「で、でも」
「跳ねれば子猫、走れば子犬、食べる姿は子供かな」
「子……。やっぱり私なんかには無謀なことなのでしょうか」
屋台の前まで来て大好きなわたあめを買うのを躊躇い、財布を持つ手をまごまごさせる。好きな人に子供と言われればショックを隠せなかった。それでもわたあめを眺め物欲しそうにする陽菜に、巧は少々の罪悪感がわく。
「悪かったって。わたあめ買えよ。大人っぽく食べてみろ」
「自信なくなってきました」
それでもしっかりとわたあめを手に入れた陽菜が、今度は食べづらそうに丸い表面をくるくると回し食べ始める場所に悩む。巧はさすがにかわいそうになってきて、近くの露店を指差した。
「髪飾りでもあれば、少しは大人っぽくなるんじゃない?」
そこは子供から大人まで楽しめるアクセサリーのハンドメイドショップの露店。巧は品定めをしながら言った。
「まぁ、中身は別として。今日のお前は、親友に比べたら幼いけど、卑下するほど子供っぽくはないよ。気負って背伸びしなくていいのに」
「でも、早く大人っぽくなりたかったんです」
「可愛いとか綺麗とかは人それぞれ。本質を見失うな。自分に似合う格好が魅力を引き出すには一番じゃないの?」
そうして巧は、ヘアアクセサリーの並ぶひとつを指差した。細工の細かい花が咲く綺麗な簪が控えめに輝く。陽菜は導かれるままにそれを手に取った。
「綺麗」
「あとは相手次第でしょ」
「これ、巧さんが選んだやつ、買ってもいいですか?」
陽菜に似合うのであろうそれを選んだ巧は自画自賛するかのように頷く。簪を購入し巧と笑顔を交わした陽菜は、単純にも心なしか大人に近づけた気がした。
不意に簪を持つ左手に何かが触れる。振り向くと、佐野に手首を握られていた。
「え?」
「はぐれると大変だから」
「すみません、つい」
「髪飾り買ったの?」
「はい」
「でもわたあめで手が塞がってるね。かして」
「あっ」
微笑んだ佐野が陽菜のこめかみ近くに簪をスッと差し込む。流れるような仕種に呆気に取られている陽菜の手を、佐野は再び取ろうとして、触れそうなところで、陽菜は眉を寄せて逃げた。
「あ、茜!広瀬先輩も、すみませんでした!」
「もう、子供じゃないんだから。団体行動してよね」
「ごめんって」
「じゃあ、花火が始まる前に出店まわろうか」
「佐野先輩!金魚すくいやりましょ!」
茜は間髪入れずに佐野をぐいぐいと引っ張っていく。その後を追いながら苦笑いした。
「茜ちゃんって、佐野が好きなんだね」
「広瀬先輩!そうなんです」
「相沢さんは佐野のことどう思う?」
「優しくて気遣いのできる素敵な先輩。私は茜のこと応援してるんですけど……」
「うーん。佐野は他に好きな人いるんだよね」
「えっ、そんな。本当ですか?」
広瀬は黙って頷いた。多分、気づいていないのは陽菜だけだろうと、それを聞いていた巧は思う。陽菜が茜を応援するように、広瀬も佐野を応援しているのだろう。
「相沢さんは好きな人いるの?」
「私?私はそんな」
「気になる人とかは?」
「いや、その。そもそも恋愛とかしたことないので、よくわからないかなーって」
「じゃもし相沢さんのこと好きって人がいたら、付き合ってみるのもいいんじゃない?」
「私のこと?いないですよ!」
「そうかなぁ。身近な人で心当たりない?」
「あはは。ないですないです」
そんなわけないと笑っていたが、広瀬の打診に陽菜ははっとして、コソコソと巧に話しかけた。
「巧さん、広瀬先輩って霊感強いのかも」
「あのさ、そろそろ気づいてやれよ」
「なにをですか?」
「罪な女」
「はぁ?」
巧はガックリと肩を落とした。巧の選んだ簪をスマートに飾ったところで、佐野に少しの敵対心を抱いてしまった自分にため息をつく。同時にプライドは満たされた気がして、悪い気はしなかった。自分も大概ガキじゃないかと思ってしまう。
「お前さ。俺のことしか考えてないだろ」
「当たり前じゃないですか」
「え?」
「だって私、巧さんの彼女だから」
恥ずかしさにのまれないように、陽菜はエッヘンと胸を張ったのだが、巧の赤くなった頬を見てつられてうろたえた。
「お前、最近遠慮ないね。なんか俺、恥ずかしいんだけど」
「自分で決めたくせに」
「お前って、可愛い子だね」
「えっ」
その言葉に頬は巧よりも赤く染まりあがる。あわてて陽菜は食べかけのわたあめで顔を隠した。わたあめを持つ手が奮え、高鳴る胸のドキドキが止まらない。可愛いと言われただけでこんなふうになってしまうのなら、綺麗だなんて言われた日にはどうなるのだろうとあくせくする。たった一言で天地を行き来するのは巧の言葉だけだった。
屋台を見てまわっていると、二人組の女性が佐野たちに声をかけた。陽菜はどこか見たことのある面影に、三年生の先輩だなと一人ごちる。他愛もない会話を待った後、別れて花火を見るために移動することになったのだが、別れ際に陽菜だけ呼び止められた。
「あなた、相沢陽菜?」
「そうですけど」
「ちょっといい?」
どこか重苦しい雰囲気の先輩に圧されて、ひとりこっそり抜け出した。気にはなったものの、増えてきた人混みにかき混ざり、すぐに茜たちの姿を見失う。陽菜はそれでも、これを避けてはいけない気がして先輩の後に続いた。
屋台のある道を少し外れると、人気のない路地裏に入る。すっかり陽が沈んでいたので、なんだか不気味だった。
「おい、やめとけ」
「え?」
巧が言うより早く、突然ガクンと視界が揺らぐ。気がつくと陽菜はひっくり返っていた。
「あんた、あんな事故起こしておいてよく男とフラフラ出歩けるわよね?」
「あ……」
「長谷川先生は、あんたのせいでっ!」
勢いよく振りかぶられた腕を見て、咄嗟に身構えるが、すぐに頬に衝撃が走る。
「あんたなんか、死ねばよかったのよ!」
暴言とは裏腹に、相手の目には涙があふれていた。じんじんと鳴る頬が罪を告げる。いつも心のどこかにあったこと。例え巧が許しても、許されるべきではないということ。陽菜の犯した罪を戒めるかのようだった。
「ごめんなさい」
陽菜はこれしか言えずに、静かに頭を下げた。泣きながら一心不乱に走り去っていく先輩たちを、しばらく呆然と見つめていると、巧の顔が覗き込む。しゃがみ込んだままの陽菜に片手が差し出された。
「大丈夫か?」
「巧さん」
「ほら、立てるか?」
陽菜は差し出された手にすがりたかったが、手を伸ばす勇気が出ない。目の前の巧を見つめたまま、ただ涙をこらえた。
「ごめんな」
「なんで巧さんが謝るんですか?」
「なんか、俺絡みだから」
陽菜はわずかに笑みをこぼし、首を振った。
「なんとなく、わかってたので」
「え?」
「よかったです。巧さんは叩きたくても叩けないでしょう?」
「なにそれ」
「誰かが巧さんの変わりに、私を咎めてくれてよかった」
「お前……」
「それほど大きな存在なんです。私は、大切な人を奪ってしまったんです」
泣く資格なんてないと、涙をこぼさないように上を向く。
「巧さんの人生を、奪ってしまったんです」
調子に乗って、楽しいことばかり考えている自分に腹が立つ。巧の手を無視して立ち上がり、汚れを払った。浴衣も髪もぐしゃぐしゃで、惨めな姿に嫌気がさして自棄になる。衝撃で外れかけ耳もとにぶら下がった簪を取り、陽菜は握りしめた。
「泥遊びした子供みたいですね。本当、私って無神経で不細工で、どうしようもないガキです」
「そんなことない」
「え?」
「お前、綺麗だよ」
巧は陽菜の強さに出会った時を彷彿とさせる。こうも決して自分を許さない、逃げない強さは何人たりとも持ち得るものだろうか。それはとても強く、美しかった。
巧は優しい手つきで陽菜の頭を撫でるようにしてから、ある一カ所を指差す。
「俺なら、ここにつける」
促されて恐る恐る簪をさすと、もう一度巧は綺麗だと告げた。
「生きていたら、お前みたいなの好きになるのも悪くない」
巧がそう言って笑うのと同時に、心臓を打ち抜くような振動が響き渡った。次々に舞う花火が陽菜を照らすが、夢中になって目をこらしたのは巧の姿で、慰めなのか同情なのか、本心なのかわからないけれど、彼の言葉に輝く星がキラキラと降ってくるようだった。巧が花火を見上げる横で、陽菜はずっと彼を見ていた。
「さっきから、なに?」
「なんでもないです」
「前を見て歩けよ。転ぶぞ」
「ふふ。はい」
「楽しそうだね」
「それはこれからです。今はわくわくしているんです」
「あっそう」
「天気もいいしほどよい風もあります。今夜の花火は綺麗ですよ」
「そんなに花火が好きなのか」
陽菜はにっこりと笑って、先日買ったばかりの下駄をカラコロと鳴らす。河川敷を並んで歩くと、犬の散歩でもしているようだった。巧のいつものペースで歩けば、走ってついてきそうで恐ろしい。今日くらいは気にかけてやろうと、こうして隣に位置しているのだけれど、どうにも歩行速度が遅すぎる。
「おい。だいぶゆっくりだけど、時間はいいのか」
「だって、浴衣だから動きづらいし」
そう言いながら、指先で裾をちょんと摘んだ。白地に、青が基調の淡く上品な撫子が、流れるように咲き誇る。そんな風流な浴衣は、目立つ包帯が自然に隠れて都合がいい。
合わせてチークとリップグロスがほんのり色づくと、普段の子供っぽさは半減。肩までの黒髪を一生懸命編み込んでまとめ、なんとか作り上げたアップスタイルも、新たな一面なのだが。どうしても、可愛らしいという言葉が似合うのは、丸い顔に丸い目に純粋そうな雰囲気にと、角がないからだろう。
巧はそんなことを考えながら、横目に気を配る。慣れてないから早く歩けないなどと、ブツブツ言い訳をしていた陽菜は、突然悩ましげに黙りを決め込んだ。それから頬を赤らめて、まさかの上目遣い。まとめ髪のおかげで露骨に見えたその表情は、なぜか艶っぽくて巧は正直驚いた。
「嘘です。本当は、巧さんとふたりだけがいいんです」
「角がなさすぎて心配だ」
「カド?」
「うん。こっちの話」
熱烈な佐野の片思いを余所に、呑気な奴だと巧は思う。親友の付き添いとは言え、せっかく久しぶりに友達と遊べるのだから、少しくらい巧をないがしろにしたって怒らないのに。ましてやこういうイベントは同世代で盛り上がったほうが楽しいだろう。
そんな自分は、昨年は家のベランダから缶ビールを片手に夜空を眺めていたことが蘇る。月並みに綺麗だなと頷きつつ、一缶空ける頃にはもう飽きて、部屋に戻り枝豆をつまむ。二本目を開けて不定期に響く振動を感じながら、なんの本を読んでいたっけと首を傾げた。
首を傾げた先に見えた隣を歩く陽菜は本当に楽しそうで、自分が言うのも変だが幽霊から離れて気晴らしすることをお勧めしたほうが良いだろうかと、巧はまた首を傾げて考えた。
「ふたりだけって、お前な。普段こそふたりだけだろうが」
「それとこれとは違うんですよ。特別感が!」
「単純だな。取り憑いたのがお前みたいな奴でよかったよ」
「取り憑くだなんて。巧さんにそんなダーク感ないですって」
アハハと手を叩いて笑った陽菜にとって、完全に巧は楽しい遊び相手に墜ちているのだろうか。今のうちに上下関係を再教育しておかなくてはと、目論んだ矢先。残念ながら陽菜ご希望のふたりだけはそう長く続かなかった。
「陽菜ー!もう、遅いよ!みんな待ってたんだからね」
「茜、ごめーん」
姿を確認した途端、若者は遠距離で叫び合う。それから駆け寄ってきたのは、同じく浴衣を着てめかし込んだ茜だった。へらつきながら適当な謝罪をしていた陽菜は、茜との距離が縮まり姿を確認すると、感嘆の声をあげ笑顔を見せる。
「わぁ!茜、浴衣似合ってるよ。大人っぽい」
「本当?ありがとう。せっかく佐野先輩と行けることになったんだし、思いきって新しいの買ったんだ」
「メイクもばっちりだね」
「もちろん!っていうかのんびりしてないで行くよ」
「待って、もっとゆっくり……」
「早くっ!」
もたつく陽菜の腕を取り、問答無用で拉致していく一連の動きは、驚くほどの鮮やかさ。勢いにのまれながらも、巧を気にして視線を送る子犬のような目に、やれやれと肩をすくめた。
「わかりやすい女」
過酷な話だ。なついているだけなのか、それ以上なのか、わからないほど巧は疎くない。このまま彼女設定にのっとり、陽菜の気持ちが進展していったとしたら、気狂いしたっておかしくはない。さすれば彼女はエリスさながらに、生ける屍となるだろう。
「あぁ、これだ」
昨年読んでいた本を思い出してつぶやいた独り言は、誰かに聞かれることはなく、ただただこれからが嘆かわしかった。振り返った陽菜が送った視線に応え、巧は少し遠くを見るように目を細めた。
陽菜は素っ気ない言葉しか返ってこなくても、呆れたそぶりをされても、巧から感じる優しい雰囲気に心が熱くなっていた。
(今日はなんだか本当に、恋人みたい)
いつも追うように歩いていたのに、見上げればすぐそこにある巧の横顔。照れ臭くて、嬉しくて、笑顔が止められないのは当然だった。邪魔をしてくれた茜に文句のひとつも言いたいところだが、同士の胸中を察すると愛想笑いしかできない。
陽菜を連れた茜は元気に佐野に向かって微笑んだ。
「お待たせしましたー!陽菜連れてきました」
「こんばんは、遅れてすみません」
軽く頭を下げた陽菜に、佐野とその隣にいた友達はやわらかく頷く。
「相沢さんだよね、俺は佐野の友達の広瀬(ひろせ)です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
茜からダブルデートだと聞いていたせいで、気恥ずかしさが込み上げる。けれども陽菜同様にただの付き添いで、相手にはそんなつもりはないかもしれない。深く意識しないようにしようと呼吸を整えた。
なにより、巧に誤解されたくはない。気になって視線をさ迷わせ彼の姿を求めるが、それは佐野によってさえぎられてしまう。
「相沢さん、浴衣姿、綺麗だよ」
「えっと、ありがとうございます」
よくある社交辞令だとわかっていても、この姿で一番に言われたい言葉でも、言ってほしかった人ではなくて陽菜は眉尻を下げる。不満は茜にもあったようで、唇を尖らせていた。
「佐野先輩!私も浴衣ですよ?」
「うん、もちろん綺麗だよ」
茜の後ろに一歩下がり小さく息を吐く。その浴衣はインパクトのある鮮やかな牡丹を黒地が引きしめていて、それを着こなせる茜の大人びた容姿を心底羨んだ。
「ほめられてよかったな」
ヌッと横から顔を覗かせた巧に、陽菜は心臓に悪いと小言を言いながらも、キュッと下唇を噛んで瞼を伏せる。
「今日の茜、すごく綺麗じゃないですか?」
「は?」
「せめてもう少し髪が長ければ、大人っぽいアレンジできたのかな」
キョトンとした巧の横で自分の前髪をいじり、どうしようもないことを吐き捨てる。ショートボブの右サイドに大きめの花が咲く茜を見て、巧は不思議そうに小首を傾げた。
「親友のほうが短いが」
「でも、似合ってるし大人っぽいです。比べて私は幼く見えるでしょ?」
「否定はしないけど」
「だから女性らしい雰囲気の、百合とか牡丹がメインの浴衣に憧れても、叶わないんです」
「別にその浴衣も悪くないだろう?」
「この柄が嫌なわけではないですよ。ただ」
言い淀む陽菜に、ますます傾げた首と困惑の表情の巧は、ほどなくして答えを導き出したよう。閃いたとばかりにポンと手を打った。
「なるほど。お前の理想は立てば芍、薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花か」
理解に苦しみ顔をへしゃげ始めた陽菜に、巧は、簡単に言うと美しい女性を花に例えた言葉だと教える。
「どの花も浴衣の柄では王道ですよね、うん。そんな大人の女性に近づきたかったんです」
「なんで急に大人目指してんの?佐野に褒められたんだから、いいじゃん」
「先輩よりももっと大人に褒めてもらいたいお年頃なんです」
「あぁ、はいはい。恒例のお年頃ね」
「面倒臭そうに言わないでください」
つい頬を膨らませてしまった陽菜が、理想の女性になれるのはいつの日か。クスクスと笑う巧から、ふんっと顔を背けるが、彼はわざわざ陽菜の顔を覗き込んで言う。
「俺も綺麗だと思うよ」
そう言って、夏の夜風のようにふわりと微笑んだ。そんな巧の顔を間近で見て頬を赤らめた陽菜に、今度は真顔で両目を細める。
「浴衣が、ね」
「なっ、じゃあ、やっぱり着る人の問題ですね!」
「あぁ、そうなるな」
騙された騙されたと脳内で繰り返し、肩をわなわなさせ怒りを滲み出す。巧は、佐野よりもっと大人が特定の人で、さらに自分だとわかったうえで、からかっているのだろうか。どちらにしても、着る人の問題だとすんなり頷いたからには、もう陽菜の心を鎮める余地はなかった。
怒りと恥ずかしさを頬に溜め、膨らませていると、巧はお腹を抱えて笑いを殺しながら遠くの屋台を指差した。
「お前の頬、あれみたい」
「リンゴ飴?」
意図を察しギロリと睨みつけようとしたが、同時に視界に入ったある屋台に陽菜は思わず我を忘れた。
「わ、わたあめ!」
屋台が軒を連ね多くの人が賑わうひとつにある、ふわふわのスイーツ。陽菜はこれが大好きだった。
「巧さん、わたあめです!買ってきます」
「え?」
陽菜は続けて茜たちに向かって言い、走り出した。カツカツと下駄を鳴らし駆け寄る陽菜を信じられないという顔で巧は追いかける。
「お年頃はどうした?大人の女性には程遠いぞ」
「大人の女性なら、美しくわたあめ食べると思いません?」
「俺は見たことない。さっきのしおらしさは?がっつりお子様じゃないか」
「で、でも」
「跳ねれば子猫、走れば子犬、食べる姿は子供かな」
「子……。やっぱり私なんかには無謀なことなのでしょうか」
屋台の前まで来て大好きなわたあめを買うのを躊躇い、財布を持つ手をまごまごさせる。好きな人に子供と言われればショックを隠せなかった。それでもわたあめを眺め物欲しそうにする陽菜に、巧は少々の罪悪感がわく。
「悪かったって。わたあめ買えよ。大人っぽく食べてみろ」
「自信なくなってきました」
それでもしっかりとわたあめを手に入れた陽菜が、今度は食べづらそうに丸い表面をくるくると回し食べ始める場所に悩む。巧はさすがにかわいそうになってきて、近くの露店を指差した。
「髪飾りでもあれば、少しは大人っぽくなるんじゃない?」
そこは子供から大人まで楽しめるアクセサリーのハンドメイドショップの露店。巧は品定めをしながら言った。
「まぁ、中身は別として。今日のお前は、親友に比べたら幼いけど、卑下するほど子供っぽくはないよ。気負って背伸びしなくていいのに」
「でも、早く大人っぽくなりたかったんです」
「可愛いとか綺麗とかは人それぞれ。本質を見失うな。自分に似合う格好が魅力を引き出すには一番じゃないの?」
そうして巧は、ヘアアクセサリーの並ぶひとつを指差した。細工の細かい花が咲く綺麗な簪が控えめに輝く。陽菜は導かれるままにそれを手に取った。
「綺麗」
「あとは相手次第でしょ」
「これ、巧さんが選んだやつ、買ってもいいですか?」
陽菜に似合うのであろうそれを選んだ巧は自画自賛するかのように頷く。簪を購入し巧と笑顔を交わした陽菜は、単純にも心なしか大人に近づけた気がした。
不意に簪を持つ左手に何かが触れる。振り向くと、佐野に手首を握られていた。
「え?」
「はぐれると大変だから」
「すみません、つい」
「髪飾り買ったの?」
「はい」
「でもわたあめで手が塞がってるね。かして」
「あっ」
微笑んだ佐野が陽菜のこめかみ近くに簪をスッと差し込む。流れるような仕種に呆気に取られている陽菜の手を、佐野は再び取ろうとして、触れそうなところで、陽菜は眉を寄せて逃げた。
「あ、茜!広瀬先輩も、すみませんでした!」
「もう、子供じゃないんだから。団体行動してよね」
「ごめんって」
「じゃあ、花火が始まる前に出店まわろうか」
「佐野先輩!金魚すくいやりましょ!」
茜は間髪入れずに佐野をぐいぐいと引っ張っていく。その後を追いながら苦笑いした。
「茜ちゃんって、佐野が好きなんだね」
「広瀬先輩!そうなんです」
「相沢さんは佐野のことどう思う?」
「優しくて気遣いのできる素敵な先輩。私は茜のこと応援してるんですけど……」
「うーん。佐野は他に好きな人いるんだよね」
「えっ、そんな。本当ですか?」
広瀬は黙って頷いた。多分、気づいていないのは陽菜だけだろうと、それを聞いていた巧は思う。陽菜が茜を応援するように、広瀬も佐野を応援しているのだろう。
「相沢さんは好きな人いるの?」
「私?私はそんな」
「気になる人とかは?」
「いや、その。そもそも恋愛とかしたことないので、よくわからないかなーって」
「じゃもし相沢さんのこと好きって人がいたら、付き合ってみるのもいいんじゃない?」
「私のこと?いないですよ!」
「そうかなぁ。身近な人で心当たりない?」
「あはは。ないですないです」
そんなわけないと笑っていたが、広瀬の打診に陽菜ははっとして、コソコソと巧に話しかけた。
「巧さん、広瀬先輩って霊感強いのかも」
「あのさ、そろそろ気づいてやれよ」
「なにをですか?」
「罪な女」
「はぁ?」
巧はガックリと肩を落とした。巧の選んだ簪をスマートに飾ったところで、佐野に少しの敵対心を抱いてしまった自分にため息をつく。同時にプライドは満たされた気がして、悪い気はしなかった。自分も大概ガキじゃないかと思ってしまう。
「お前さ。俺のことしか考えてないだろ」
「当たり前じゃないですか」
「え?」
「だって私、巧さんの彼女だから」
恥ずかしさにのまれないように、陽菜はエッヘンと胸を張ったのだが、巧の赤くなった頬を見てつられてうろたえた。
「お前、最近遠慮ないね。なんか俺、恥ずかしいんだけど」
「自分で決めたくせに」
「お前って、可愛い子だね」
「えっ」
その言葉に頬は巧よりも赤く染まりあがる。あわてて陽菜は食べかけのわたあめで顔を隠した。わたあめを持つ手が奮え、高鳴る胸のドキドキが止まらない。可愛いと言われただけでこんなふうになってしまうのなら、綺麗だなんて言われた日にはどうなるのだろうとあくせくする。たった一言で天地を行き来するのは巧の言葉だけだった。
屋台を見てまわっていると、二人組の女性が佐野たちに声をかけた。陽菜はどこか見たことのある面影に、三年生の先輩だなと一人ごちる。他愛もない会話を待った後、別れて花火を見るために移動することになったのだが、別れ際に陽菜だけ呼び止められた。
「あなた、相沢陽菜?」
「そうですけど」
「ちょっといい?」
どこか重苦しい雰囲気の先輩に圧されて、ひとりこっそり抜け出した。気にはなったものの、増えてきた人混みにかき混ざり、すぐに茜たちの姿を見失う。陽菜はそれでも、これを避けてはいけない気がして先輩の後に続いた。
屋台のある道を少し外れると、人気のない路地裏に入る。すっかり陽が沈んでいたので、なんだか不気味だった。
「おい、やめとけ」
「え?」
巧が言うより早く、突然ガクンと視界が揺らぐ。気がつくと陽菜はひっくり返っていた。
「あんた、あんな事故起こしておいてよく男とフラフラ出歩けるわよね?」
「あ……」
「長谷川先生は、あんたのせいでっ!」
勢いよく振りかぶられた腕を見て、咄嗟に身構えるが、すぐに頬に衝撃が走る。
「あんたなんか、死ねばよかったのよ!」
暴言とは裏腹に、相手の目には涙があふれていた。じんじんと鳴る頬が罪を告げる。いつも心のどこかにあったこと。例え巧が許しても、許されるべきではないということ。陽菜の犯した罪を戒めるかのようだった。
「ごめんなさい」
陽菜はこれしか言えずに、静かに頭を下げた。泣きながら一心不乱に走り去っていく先輩たちを、しばらく呆然と見つめていると、巧の顔が覗き込む。しゃがみ込んだままの陽菜に片手が差し出された。
「大丈夫か?」
「巧さん」
「ほら、立てるか?」
陽菜は差し出された手にすがりたかったが、手を伸ばす勇気が出ない。目の前の巧を見つめたまま、ただ涙をこらえた。
「ごめんな」
「なんで巧さんが謝るんですか?」
「なんか、俺絡みだから」
陽菜はわずかに笑みをこぼし、首を振った。
「なんとなく、わかってたので」
「え?」
「よかったです。巧さんは叩きたくても叩けないでしょう?」
「なにそれ」
「誰かが巧さんの変わりに、私を咎めてくれてよかった」
「お前……」
「それほど大きな存在なんです。私は、大切な人を奪ってしまったんです」
泣く資格なんてないと、涙をこぼさないように上を向く。
「巧さんの人生を、奪ってしまったんです」
調子に乗って、楽しいことばかり考えている自分に腹が立つ。巧の手を無視して立ち上がり、汚れを払った。浴衣も髪もぐしゃぐしゃで、惨めな姿に嫌気がさして自棄になる。衝撃で外れかけ耳もとにぶら下がった簪を取り、陽菜は握りしめた。
「泥遊びした子供みたいですね。本当、私って無神経で不細工で、どうしようもないガキです」
「そんなことない」
「え?」
「お前、綺麗だよ」
巧は陽菜の強さに出会った時を彷彿とさせる。こうも決して自分を許さない、逃げない強さは何人たりとも持ち得るものだろうか。それはとても強く、美しかった。
巧は優しい手つきで陽菜の頭を撫でるようにしてから、ある一カ所を指差す。
「俺なら、ここにつける」
促されて恐る恐る簪をさすと、もう一度巧は綺麗だと告げた。
「生きていたら、お前みたいなの好きになるのも悪くない」
巧がそう言って笑うのと同時に、心臓を打ち抜くような振動が響き渡った。次々に舞う花火が陽菜を照らすが、夢中になって目をこらしたのは巧の姿で、慰めなのか同情なのか、本心なのかわからないけれど、彼の言葉に輝く星がキラキラと降ってくるようだった。巧が花火を見上げる横で、陽菜はずっと彼を見ていた。