優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

1.平凡な私は

 私は平凡な人間である。
 妹であるエルメラの逸話を聞く度に、それを実感していた。
 文武両道で容姿も端麗である妹は、魔法の才能もあり、正に完璧な人間である。私は彼女の姉であるというのに、何一つ妹には敵わない。

「ありがとうございます、イルティナ様」
「いえ、お気をつけて帰ってくださいね」

 私が慈善活動に精を出すようになったのは、そんな妹に対する劣等感からなのかもしれない。
 人を助けるということに、邪な思いから行動を始めたという事実は、決して誇れることではないだろう。
 しかし、妹違って平凡な私が少しでも世の中に立つには、これくらいしかできないのだ。

「イルティナ嬢、こんにちは。今日も精が出ていますね」
「ドルギア殿下? こ、こんにちは。まさか、いらしているとは……」
「ははっ、こうして国民の様子を見にくることが、僕の役目ですからね」

 貴族というものは、多かれ少なかれ慈善的な活動を行うものである。
 何故そうしているか、その思想は様々だ。体裁のためにやっている者もいるし、中には本気で思いやりを持っている人もいる。多いのはどちらかというと、前者だろうか。
 私は後者のような人間になりたかった。そうであったら、もう少し自分のことを誇れるようになっていたかもしれない。

「まあ、僕にはそれくらいしかできないという方が正しいでしょうか?」
「ドルギア殿下がこういった場所へ来て下さるということには、大きな意味があります。国民にとっては希望や支えになるのですから、これは何よりも誇り高き役目だといえるのではないでしょうか?」
「……そうですね。申し訳ありません、僕は今、とても愚かなことを口にしました」

 活動をしていく中で、私は多くの人と知り合った。
 第三王子であるドルギア殿下も、その一人だ。
 五人兄弟の末っ子ということが関係しているのか、彼には少し卑屈な部分がある。そういった点に関して、私は少なからず共感を覚えているのだ。

 もっとも、姉でありながら妹に劣等感を覚えている私なんかが共感するのは、ドルギア殿下に対して失礼だといえる。
 兄や姉の背中を追いかけるなんて、当たり前のことだ。先に生まれ分の経験値があるのだから、そこに差が生まれるのも当然のことであるだろう。
 しかし私達姉妹はそうではない。我ながら情けない話だ。

「イルティナ嬢は聡明なお方ですね。妹君も優秀だと聞いていますし、アーガント伯爵家も安泰でしょう」
「……ええ、まあ、私なんかよりも妹の方が引っ張っていってくれるとありがたいのですけれどね」
「そういえば、婚約が決まったとか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。ドルギア殿下」
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