優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?
20.命の重み(エルメラ視点)
愚かなる私は、お姉様の言葉を聞いて、怒っていた。
強大な力を持つ自分が、誰かに指図されることがあってはならない。幼いながらも、私の中にはそんなプライドがあったのだ。
だから私は、お姉様に自分の力を誇示しようとした。手近にある木に魔法を放って、お姉様を威嚇したのだ。それがどのような結果をもたらすか、考えもせずに。
「――危ないっ!」
「……え?」
気付いた時には、私の体は弾き飛ばされていた。
力なく尻餅をついた私の目の前では、砂埃が舞っている。
その中でお姉様は、倒れてきた大木の下敷きになっていた。私を突き飛ばしたことによって逃げ遅れたことは、考えるまでもないことであるだろう。
「……ふっ」
その段階でも、まだ私は笑みを零していた。
私の邪魔をするから、そんなことになる。そう言ってお姉様を嘲笑おうとしていたのだ。
私は強大な力を持つ故に、状況を理解していなかった。それくらいは大したことがないと思いながら、お姉様に近寄ったのだ。
「え? お姉様……?」
意気揚々と近づいた私は、お姉様の様子に固まることになった。
弱々しく呼吸するお姉様は、明らかに普通の状態ではない。
それを認識した途端、辺り一面に広がっているものと臭いに気付いた。そこでやっと、私はお姉様の状態に気が付いたのだ。
「お姉様、しっかりしてください……お姉様、これはっ……」
魔法で大木をどかした私は、お姉様の体に恐る恐る触れた。
その冷たさというものに、私は再度固まってしまった。お姉様の気質故に、触れ合う機会は多かったのだが、それらで感じていた温かさというものを私はそこで嫌という程理解することになっていたのだ。
「うっ……」
胃の中のものが、逆流していくのを感じた。
血生臭い臭いもあってか、私は吐き気を覚えていた。
いつも天真爛漫に笑っていたお姉様は、そこにはもういない。ゆっくりと冷たくなっていく姉を肌で感じ取っていた私は、先程お姉様に言われたことを思い出していた。
命というものを私は、軽々しく扱っていた。
生き物を魔法の実験に使って、それらを気に留めていなかった。私は命を悪戯に奪っていたのだ。それらの生き物を食する訳でもなく、私の生活を侵害した訳でもなかったのに。
この出来事がなければ、私はきっと人の命にすら手をかけていただろう。
私が多少の法を犯すことはあっても、殺人に手を染めていないのは、お姉様が命の大切さをその身を持って教えてくれたからだといえる。
「……回復魔法。でも、それだけじゃあ……なら」
色々と後悔の念はあったが、私はすぐに気持ちを切り替えた。
このままではお姉様の命は消え去ってしまう。それならやることはただ一つだ。
魔法の知識、医学の知識、それらを総動員して私は治療を開始した。
結果として私は、お姉様のことを助けることができた。
ただ、ぎりぎりだったといえる。一歩間違えれば、お姉様はあのまま帰らぬ人になっていたかもしれない。
ちなみに当の本人は、この時のことは覚えていない。意識を失ったこともあったか、私を注意したことくらいしか記憶には残っていないようだ。
強大な力を持つ自分が、誰かに指図されることがあってはならない。幼いながらも、私の中にはそんなプライドがあったのだ。
だから私は、お姉様に自分の力を誇示しようとした。手近にある木に魔法を放って、お姉様を威嚇したのだ。それがどのような結果をもたらすか、考えもせずに。
「――危ないっ!」
「……え?」
気付いた時には、私の体は弾き飛ばされていた。
力なく尻餅をついた私の目の前では、砂埃が舞っている。
その中でお姉様は、倒れてきた大木の下敷きになっていた。私を突き飛ばしたことによって逃げ遅れたことは、考えるまでもないことであるだろう。
「……ふっ」
その段階でも、まだ私は笑みを零していた。
私の邪魔をするから、そんなことになる。そう言ってお姉様を嘲笑おうとしていたのだ。
私は強大な力を持つ故に、状況を理解していなかった。それくらいは大したことがないと思いながら、お姉様に近寄ったのだ。
「え? お姉様……?」
意気揚々と近づいた私は、お姉様の様子に固まることになった。
弱々しく呼吸するお姉様は、明らかに普通の状態ではない。
それを認識した途端、辺り一面に広がっているものと臭いに気付いた。そこでやっと、私はお姉様の状態に気が付いたのだ。
「お姉様、しっかりしてください……お姉様、これはっ……」
魔法で大木をどかした私は、お姉様の体に恐る恐る触れた。
その冷たさというものに、私は再度固まってしまった。お姉様の気質故に、触れ合う機会は多かったのだが、それらで感じていた温かさというものを私はそこで嫌という程理解することになっていたのだ。
「うっ……」
胃の中のものが、逆流していくのを感じた。
血生臭い臭いもあってか、私は吐き気を覚えていた。
いつも天真爛漫に笑っていたお姉様は、そこにはもういない。ゆっくりと冷たくなっていく姉を肌で感じ取っていた私は、先程お姉様に言われたことを思い出していた。
命というものを私は、軽々しく扱っていた。
生き物を魔法の実験に使って、それらを気に留めていなかった。私は命を悪戯に奪っていたのだ。それらの生き物を食する訳でもなく、私の生活を侵害した訳でもなかったのに。
この出来事がなければ、私はきっと人の命にすら手をかけていただろう。
私が多少の法を犯すことはあっても、殺人に手を染めていないのは、お姉様が命の大切さをその身を持って教えてくれたからだといえる。
「……回復魔法。でも、それだけじゃあ……なら」
色々と後悔の念はあったが、私はすぐに気持ちを切り替えた。
このままではお姉様の命は消え去ってしまう。それならやることはただ一つだ。
魔法の知識、医学の知識、それらを総動員して私は治療を開始した。
結果として私は、お姉様のことを助けることができた。
ただ、ぎりぎりだったといえる。一歩間違えれば、お姉様はあのまま帰らぬ人になっていたかもしれない。
ちなみに当の本人は、この時のことは覚えていない。意識を失ったこともあったか、私を注意したことくらいしか記憶には残っていないようだ。