優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

23.天才故に

「エルメラ嬢にも、可愛い時があったという訳ですか……ああ、この言い方は、失礼でしょうかね?」
「ふふ……ええ、そうかもしれませんね」

 私の話を聞いたドルギア殿下は、とても率直な意見を述べてきた。
 彼自身はしまったという顔をしているが、言う通りではある。今のエルメラは、かつてのように可愛げがあるという訳でもないのだから。

「しかし、一体エルメラ嬢には何があったのでしょうかね? 話を聞いた限りでは、今のようになるとは到底思えませんが……」
「それについては、私にもわかりません。でも、姉妹や兄弟なんて、そんなものなのではありませんか。ドルギア殿下も、お兄様やお姉様と未だにべたべたしているという訳でもないでしょう?」
「それはそうですが、僕達は今でも仲が良い兄弟ですよ? 少なくとも、エルメラ嬢のような態度の兄弟はいません」
「そうなのですか?」
「ええ、まあ、流石にべたべたはしていませんが……」

 妹の心が離れていくということについて、私は当たり前のことだと認識していた。
 友人などもそういった旨を述べていたし、自然とそうなるものだと思っていたのだ。

 そもそも、貴族の兄弟や姉妹は仲が悪いことも多い。家を継ぐとか継がないとか、そういった側面があるからだ。
 それを考えると、私とエルメラはまだマシくらいに思っていた。家のことに興味がないエルメラとは、そういった諍いが起こることはないからだ。もっとも、今回は何故かエルメラが家の問題に介入してきた訳だが。

「ただ、エルメラ嬢に関しては、常人とは異なる事情が絡んでいるのかもしれませんからね」
「……それは、どういうことですか?」
「天才である彼女には、僕達には理解できないような悩みだったり、苦悩だったりがあるのかもしれません」
「なるほど……」

 ドルギア殿下の指摘に、私は驚くことになった。
 天才ゆえの苦悩、それは今まで思ってもいなかったことだ。
 ただ、言われてみればそういうこともあるのかもしれない。いや、ないと考える方が不自然だ。

 よく考えてみれば、エルメラはいつも不機嫌そうな顔をしている。
 あの表情は、天才ゆえの苦悩が現れていたということなのかもしれない。

「そう考えてみると、私はエルメラのことを何も知らなかったのかもしれません。あの子はあの子で、色々な苦悩と戦っていたのなら……」
「別に、今からでもいくらでもやり直すことはできますよ。また何かあったら、僕に相談してください。微力ながらも、力を貸しますから」
「とても頼りになります、ドルギア殿下」

 ドルギア殿下の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 彼と話すことによって、また私の心は軽くなっていた。ドルギア殿下は、本当に頼りになる人だ。私は改めてそう思うのだった。
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