優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

42.気味が悪い笑み

 ドルギア殿下が来られた日から一日が経って、私はエルメラとのお茶会に臨んでいた。
 エルメラはいつも通り、不機嫌そうな顔をしながらお茶を飲んでいる。この妹は、昨日のことなどを話す気なんてないのだろう。

「エルメラ、あなたに聞きたいことがあるのだけれど」
「……はい、なんですか?」
「どうして私とドルギア殿下の婚約を望んだの?」
「……」

 私が質問をすると、エルメラはゆっくりとその動きを止めた。
 彼女はティーカップを置いて、私をその両の目でしっかりと見据えてきた。その視線は、とても力強い。

「ドルギア殿下から聞いたのですか?」
「いいえ、なんとなくわかったのよ。お父様の様子とか、あなたの様子とか、ドルギア殿下の様子とか……端的に言ってしまえば、おかしかったもの」
「なるほど……まあ、私も平静でなかった自覚はあります。ドルギア殿下だって、そうだったでしょう。お父様には、最初から期待していませんでしたが」
「辛辣ね」

 エルメラは、ゆっくりとため息をついて、ティーカップを再び手に取った。
 それを私は、エルメラが動揺していると捉えた。今彼女は、紅茶に頼らなければならない程に、焦っているのだ。

「だけど、わからないの。あなたがどうして私とドルギア殿下の婚約を望んだのかが」
「さて、どうしてなのでしょうね。予測くらいは、あるのではありませんか?」
「……単純に、私の幸せを願っているとか、ではないような気がするのよね。だってあなたは、私の婚約の話となると、とても不機嫌そうにするし」
「え? ああ……」

 私の言葉に、エルメラは少しばつが悪そうな表情をしていた。
 この妹にしては、珍しい表情だ。それが何を意味するのかは、よくわからない。私に対して、申し訳なさなどを覚えているのだろうか。

「……まあ、簡単な話ですよ。私は王家との繋がりが欲しくて、お姉様を利用している。それに対して多少の罪悪感くらいはあるから、ぎこちない態度になってしまうのです」
「それは嘘ね」
「……どうしてそう断言できるのですか?」
「これでもあなたの姉だもの。あなたの性質は多少理解しているつもり。私の知っているエルメラは、王家との繋がりなんて欲しがらない。そんなものは不必要だと鼻で笑うのがあなた……って、これはちょっと失礼かしらね?」
「……はー」

 そこでエルメラは、ゆっくりと俯いてため息をついた。
 私の予測は的外れだったということだろうか。呆れられてしまっているなら、少し恥ずかしい。
 そう思っていた私は、直後に目を丸めることになった。顔を上げたエルメラが、少し気味が悪くなるような笑みを浮かべていたからだ。
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