優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

45.晴れやかな気分で

 晴れやかな気分であった。
 エルメラの愛情のようなものが、微かながらも感じられた私は、なんだかとても明るい気持ちになっていた。
 今思い返してみると、という話ではあるが、これまでの私は後ろ向きだったような気がする。

 妹に対するコンプレックスとでもいうのだろうか。それが根底にあったためか、心から晴れやかとは言えなかったような気がする。
 エルメラとの対話によって、私の中のコンプレックスのようなものはある程度解消された。そのきっかけを作ってくれたドルギア殿下には、感謝しなければならない。

「……それでも、結局こういった場所に足を運んでいるのよね」

 そんな私は、今日も今日とて慈善活動に参加していた。
 アーガント伯爵家の人間として、そういった活動に参加するのは、対外的なアピールになる。元々はエルメラの才能から逃げるためにやっていたことだが、今でもこれは必要なことだ。
 それに気付いたのは、ここに来てからのことである。私は、そういった貴族としての合理的な事柄など考えずに、参加することを決めていたのだ。

「まあ、人のためになることをやっているのだから、細かいことなんてどうでもいいということかしら……」
「おや、イルティナ様ではありませんか」
「あ、グラットンさん。お久し振りですね。お元気でしたか?」
「ええ、元気ですよ。まあ、体のあちこちにガタは来ていますがね」

 色々と考えていた私は、見知った顔に話しかけられた。
 グラットンさんは杖をつきながら、ふらふらとした足取りでこちらに近づいて来る。

「治療はきちんと受けられているのですよね?」
「ええ、その辺はご心配なく。まあこうして、生きているだけでも儲けですよ。あの炭鉱の事故以来、そう思うようになりました」
「あの時は本当に……」

 グラットンさんが炭鉱での事故の話をして、私は当時のことを思い出していた。
 崩落の度合いからして、中にいる人が助かっている可能性はゼロに近い。そう言われた私は、彼の生存をほぼ諦めていた。
 しかし奇跡的に、グラットンさんを含めた数名は助かっていた。炭鉱の中の僅かな隙間で何日間も耐え抜き、救助されたのである。

「イルティナ様には、本当に感謝しています。身寄りのない私なんかのために、わざわざ待っていてくれた」
「いえ、私はそれ程特別なことができた訳ではありません。ただそこにいたというだけで……」
「それが何よりも嬉しかったのです。お陰で今は、平和に暮らせていますから」

 事故で足を怪我したグラットンさんだが、彼はそれから炭鉱で見つけていた土器を元手に、古物商としての道を進んだ。なんでもそういった知識は、あったそうなのだ。
 今ではこうして、慈善活動に参加できる程に余裕がある。それはなんとも、喜ばしいことだ。
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