優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

52.許せない者(エルメラ視点)

 お姉様に危害を加えようとする者など、許しておくことはできない。
 そう思った私は、ヘレーナ嬢に対してとある魔法を使うことに決めた。
 それは以前、私にこだわっていた第三研究所の所長に使った魔法だ。以前は、欠陥も多かった魔法だが、改良を重ねて今はかなり使い勝手のいい魔法になっている。

「もっとも、その魔法を使えるのは私くらいですけれど」
「そんなに難しい魔法なのか?」
「ええ、記憶に関する魔法は簡単ではありませんからね。特に一部の記憶だけなくすなんて、ほとんどの人にはできません。私でもこの魔法を完璧に使えるようになったのは最近です」
「エルメラ嬢ですら、それなのか……」

 私は、チャルア殿下の案内でヘレーナ嬢がいる部屋に向かっている。
 時期騎士団長と名高い殿下は、どうやら私の魔法に興味があるらしい。騎士団の中にも、優れた魔法使いは多くいるだろう。その魔法使いに何か伝えられることがないか、探ってきているといった所だろうか。

「記憶を消す魔法くらいは、ある程度の魔法使いなら扱うことができるでしょうね。ただ、それは記憶を一から十まで消すということなので、必要性があるのかどうかはわかりません。相手を廃人にするのも同然ですから、殺すのとほとんど変わりありませんからね」
「まあ、そうだな。エルメラ嬢の言う通りだ。一部の記憶だけ消せるなら、便利なんだがな……知らない方がいいことというのも、ある訳だし」

 お姉様を不当に拘束した騎士団に対しては、色々と思う所がある。
 とはいえ、それでも騎士団がこの国にとって必要な存在だ。市民の安全のためにも、騎士団には力をつけてもらわなければならない。
 故に私は、チャルア殿下の議論に応じた。魔法の話自体も嫌いではないため、道中の暇潰しとしては丁度良いと思ったのもある。

「……これは」
「エルメラ嬢、どうかしたのか?」
「私としたことが、どうやら油断してしまったようですね……」

 しかし私は、呑気に話している場合ではないということを悟った。
 周囲の空気が、歪に揺れている。これは恐らく、何かしらの強力な魔法が行使されたからだ。
 私は、感覚を頼りに進んで行く。すると、辺り一面に倒れている騎士と壊れた壁を見つけた。

「エルメラ嬢、急に一体……なっ!」
「どうやら、逃げられたようですね。こちらの動きを察知していましたか……また騎士団の不祥事が増えてしまいましたね」
「なんということだ……」

 ヘレーナ嬢は、それなりの魔法使いではあるらしい。
 騎士団がいくら間抜けでも、自分の冤罪が成立しないと理解できる賢さもあるだろう。
 これは思っていたよりも、厄介な相手かもしれない。もちろん、この程度の相手に私がいいようにされるなんてことはあり得ないのだが。
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