優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

75.頼れる妹

「魔法を習いたい、ですか?」
「ええ、お願いできるかしら?」

 ドルギア殿下の勧めもあったので、私はエルメラに魔法を教えて欲しいと頼むことにした。
 ドルギア殿下が王城に帰った後のお茶会で、思い切って切り出してみることにしたのである。
 私の言葉に、エルメラは目を丸めている。やはり唐突な提案であるため、すんなりと受け入れてもらえることではないようだ。

「……まさか、お姉様からそんなことを提案されるなんて思っていませんでした。一体どういう風の吹き回しですか?」
「魔法を学ぶのをやめたことを今頃になって後悔しているのよ。あなたと張り合うとかではなく、一つの知識として学ぶべきものだと……」
「張り合う? 張り合っていたのですか?」
「え? ええ、まあ、それは一応、姉だもの」

 エルメラは、私の言葉にさらに目を丸くした。
 それはきっと、張り合っていたことに対する驚きだろう。規格外の自分と張り合うなんて、意味がないことだとか、思っているのかもしれない。
 しかしどれだけ規格外であっても、エルメラは私にとっては妹だ。張り合わないなんて、無理な話である。姉である以上、妹の見本になりたいものなのだ。

「なるほど……まあ、そうですか」
「エルメラ? どうして少し嬉しそうにしているの?」
「いえ、まあ、別にそんなことはないですよ? いや、お姉様はやっぱりお姉様で、そういう所が好きだなぁとか……」
「え?」
「あ、いえ、なんでもありません」

 エルメラは、とても表情を柔らかくしていた。
 さらには、滅多に言わないようなことを口にしている。
 彼女が私のことを愛していることは、なんとなく伝わっていたが、口に出されると面食らってしまう。こんな妹がこんなに素直になるなんて、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。

「……もちろん、魔法に関しては御指南しますよ。それは私にとっても、学びになりますからね」
「そうなの?」
「ええ、人に教えられるようになってこそ、一人前というものです。私はこれでも魔法そのものの発展を願っていますからね。私の偉大なる才能を後世に残していくためにも、指導の面にも力を入れたいのです」

 エルメラは、私の提案に明るい回答を返してくれた。
 それは私にとって、とてもありがたいことである。

「ありがとう、エルメラ。頼りになる妹がいて、助かるわ」
「頼りになる妹……ふふ、そうですか?」
「ええ、エルメラは私にとって、とても大切な妹よ……って、口にするのは、やっぱり少し恥ずかしいわね?」

 この妹は、とても規格外だ。だが姉想いの良き妹であると思う。
 悩んだ時もあったが、エルメラが妹で本当に良かった。今は素直に、そう思うことができる。それが何よりも幸福だ。

「……」
「あら?」

 私が笑顔で言葉をかけた後、私の視界からエルメラが消えた。
 それが彼女が倒れたのだと気付いたのは、少し遅れてからである。急にどうしてしまったのだろうか。

「エルメラ?」
「だ、大丈夫です。ちょっと許容量の限界が」
「限界? いや、そんなことよりもどこか怪我していない?」
「私の体は魔法で守られています。これくらいではなんともありませんよ。無問題です。お医者様に診てもらう必要もありません」
「そう……でも診てもらっておいた方がいいわ。万が一ということもあるのだし」

 エルメラは、すぐに立ち上がって笑顔を見せてくれた。
 しかし、急に倒れるなんてやはり心配だ。念のためお医者様に診てもらっておいた方がいい。エルメラが嫌と言っても、連れていくとしよう。
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