優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?
80.幸せな日々(エルメラ視点)
ピクニックを断られた私だったが、甥と姪とのお茶会があることを思い出したため、すぐに元気を取り戻すことができた。
それはつまり、二人には人を元気にするパワーがあるということ。わかっていたことではあるが、二人は人類の宝である訳だ。
という訳で、私は庭でイルディオとトルリアとお茶会を開いていた。
「叔母様、それでこの魔法は……」
「それ程難しい魔法ではありません。そうですね。水を凍らせる魔法とやり方はそれ程変わりません。要はそれと同じように時間を凍らせればいいのですから」
「叔母様、私も教えていただけませんか?」
「ああ、そちらの魔法は網をイメージするとわかりやすいかもしれませんね。実際に触ってみるのもいいでしょうか」
イルディオとトルリアは、類稀なる魔法の才能を有している。
その才能は、私に匹敵するといえるだろう。私という偉大なる指導者がいることを考えると、私以上に二人は大物になるかもしれない。
ただ、そのことは私達にとってはどうでもいいことだ。
私もお姉様もドルギア殿下も、この子達の祖父母であるお父様やお母様だって、願っていることはただ一つである。
二人が健やかに、幸せに生きてくれたらそれでいい。もちろん魔法の道に進みたいのならそうすればいいが、それについて強制するつもりなんてない。
「……二人とも、魔法は楽しいですか?」
「え? あ、はい。楽しいです」
「叔母様に色々と教えてもらって、本当に感謝しています。いつも本当にありがとうございます」
「そんな風に改まって言う必要はありませんよ。私も二人とこうして魔法のことを話している時間が、とても楽しいですから」
そこで私はふと、庭の一角にある切り株を見つめていた。
その切り株というのは、私の始まりともいえる切り株だ。決して忘れることができない私の忌まわしき記憶の証として残したその切り株を見ると、ふつふつと心の奥底から湧き出してくるものがあった。
だけど今は、少しだけ心穏やかにその切り株を見られている。
それはきっとお姉様が今は健康に過ごされていて、子宝にも恵まれて、良き夫を――
「良き夫を……?」
「叔母様? どうかされたのですか?」
「なんだか、具合が悪そうですけれど」
「いえ、大丈夫です。大丈夫ですとも」
ドルギア殿下は良き夫だろうか。あの人は、次期アーガント伯爵家の当主として、立派にお父様をサポートして、子供達にも慕われていて、何よりもお姉様に優しいだけだ。
いやしかし、お姉様の夫が良き夫でないなんてことがあっていいはずはない。お姉様は幸せになるべき人間なのだから、良縁に恵まれているべきだ。そういう意味では、ドルギア殿下が良い夫でなければ困ってしまう。
「ううっ……」
「叔母様、本当にどうしたんですか?」
「どこか痛い所でもあるんですか?」
「……あなた達もきっと、大人になったらわかります。この世界には、どうしようもなく難しいことがあるのです。そう、例えばケーキを食べたらプリンが食べられなくて、逆にプリンを食べたらケーキが食べられないというような」
この世界には、理不尽というものがある。私はここ数年でそれを学んでいた。
かつては、自分にできないことなどないと思っていたが、今考えるとそれは若かったからなのだろう。今の私は現実を見ることができる大人だ。矛盾した事柄を抱えたまま生きていくことしか、今の私にはできない。
「そ、それは大変ですね……」
「ケーキもプリンも食べたいです」
「それでは、私が食べさせてあげましょう。お姉様には内緒ですからね」
「ほ、本当ですか? ……あ、いや、駄目です。前にも同じようなことをして怒られました」
「お母様はいつも優しいけど、怒ると怖いです。叔母様もあの時は一緒に怒られましたが……」
「甘やかし過ぎていると言われてしまいましたね……お姉様はあなた達に節制することの重要さを教えようとしているのでしょう。貴族として、それは必ず必要なことですから」
何はともあれ、今の私が幸せであることは間違いない。
これからも愛するべき家族と一緒に、私は日々を送っていく。その幸せを邪魔する者には、容赦するつもりはない。お姉様にもイルディオにもトルリアにも、お父様やお母様、それからドルギア殿下にも、指一本触れさはしない。
私は家族を必ず守る。それは意気込みではない。単なる事実だ。
私にはそれができる。なぜなら私は、偉大なる才能を有する者だからだ。
「お父様は味方してくれましたね?」
「あ、そうでした。それくらいは許してあげようって言っていました。私達の誕生日に王都にある集合住宅を買った時よりはマシだって」
「ドルギア殿下は甘すぎますね。もう少しお姉様のような厳しさを身に着けるべきです。あ、あの集合住宅の権利はちゃんと受け取ってくださいね。お二人の個人的な収入源になりますから」
END
それはつまり、二人には人を元気にするパワーがあるということ。わかっていたことではあるが、二人は人類の宝である訳だ。
という訳で、私は庭でイルディオとトルリアとお茶会を開いていた。
「叔母様、それでこの魔法は……」
「それ程難しい魔法ではありません。そうですね。水を凍らせる魔法とやり方はそれ程変わりません。要はそれと同じように時間を凍らせればいいのですから」
「叔母様、私も教えていただけませんか?」
「ああ、そちらの魔法は網をイメージするとわかりやすいかもしれませんね。実際に触ってみるのもいいでしょうか」
イルディオとトルリアは、類稀なる魔法の才能を有している。
その才能は、私に匹敵するといえるだろう。私という偉大なる指導者がいることを考えると、私以上に二人は大物になるかもしれない。
ただ、そのことは私達にとってはどうでもいいことだ。
私もお姉様もドルギア殿下も、この子達の祖父母であるお父様やお母様だって、願っていることはただ一つである。
二人が健やかに、幸せに生きてくれたらそれでいい。もちろん魔法の道に進みたいのならそうすればいいが、それについて強制するつもりなんてない。
「……二人とも、魔法は楽しいですか?」
「え? あ、はい。楽しいです」
「叔母様に色々と教えてもらって、本当に感謝しています。いつも本当にありがとうございます」
「そんな風に改まって言う必要はありませんよ。私も二人とこうして魔法のことを話している時間が、とても楽しいですから」
そこで私はふと、庭の一角にある切り株を見つめていた。
その切り株というのは、私の始まりともいえる切り株だ。決して忘れることができない私の忌まわしき記憶の証として残したその切り株を見ると、ふつふつと心の奥底から湧き出してくるものがあった。
だけど今は、少しだけ心穏やかにその切り株を見られている。
それはきっとお姉様が今は健康に過ごされていて、子宝にも恵まれて、良き夫を――
「良き夫を……?」
「叔母様? どうかされたのですか?」
「なんだか、具合が悪そうですけれど」
「いえ、大丈夫です。大丈夫ですとも」
ドルギア殿下は良き夫だろうか。あの人は、次期アーガント伯爵家の当主として、立派にお父様をサポートして、子供達にも慕われていて、何よりもお姉様に優しいだけだ。
いやしかし、お姉様の夫が良き夫でないなんてことがあっていいはずはない。お姉様は幸せになるべき人間なのだから、良縁に恵まれているべきだ。そういう意味では、ドルギア殿下が良い夫でなければ困ってしまう。
「ううっ……」
「叔母様、本当にどうしたんですか?」
「どこか痛い所でもあるんですか?」
「……あなた達もきっと、大人になったらわかります。この世界には、どうしようもなく難しいことがあるのです。そう、例えばケーキを食べたらプリンが食べられなくて、逆にプリンを食べたらケーキが食べられないというような」
この世界には、理不尽というものがある。私はここ数年でそれを学んでいた。
かつては、自分にできないことなどないと思っていたが、今考えるとそれは若かったからなのだろう。今の私は現実を見ることができる大人だ。矛盾した事柄を抱えたまま生きていくことしか、今の私にはできない。
「そ、それは大変ですね……」
「ケーキもプリンも食べたいです」
「それでは、私が食べさせてあげましょう。お姉様には内緒ですからね」
「ほ、本当ですか? ……あ、いや、駄目です。前にも同じようなことをして怒られました」
「お母様はいつも優しいけど、怒ると怖いです。叔母様もあの時は一緒に怒られましたが……」
「甘やかし過ぎていると言われてしまいましたね……お姉様はあなた達に節制することの重要さを教えようとしているのでしょう。貴族として、それは必ず必要なことですから」
何はともあれ、今の私が幸せであることは間違いない。
これからも愛するべき家族と一緒に、私は日々を送っていく。その幸せを邪魔する者には、容赦するつもりはない。お姉様にもイルディオにもトルリアにも、お父様やお母様、それからドルギア殿下にも、指一本触れさはしない。
私は家族を必ず守る。それは意気込みではない。単なる事実だ。
私にはそれができる。なぜなら私は、偉大なる才能を有する者だからだ。
「お父様は味方してくれましたね?」
「あ、そうでした。それくらいは許してあげようって言っていました。私達の誕生日に王都にある集合住宅を買った時よりはマシだって」
「ドルギア殿下は甘すぎますね。もう少しお姉様のような厳しさを身に着けるべきです。あ、あの集合住宅の権利はちゃんと受け取ってくださいね。お二人の個人的な収入源になりますから」
END