社長とは恋愛しません!
廊下を淡々と歩くと、社長が部屋から出て来た。

「ここで、待ってる。」

私は後ろを振り向いた。

「君が戻って来るのを、ここで待っている。」

私は何も言わずに、また前を向いて、歩き始めた。


「あら、お客様。もうお帰りに?」

お店の女将さんが、私に声を掛けた。

「はい。せっかくお料理用意して下さったのに、すみません。」

私は女将の顔をろくに見ずに、頭を下げた。

「なんか、ありました?」

「いえ、何も。」

女将さんに言ったところで、私達の関係は戻ったりしない。

すると女将さんは、ふふふと笑った。

「いやね。真田さんのお坊ちゃん。どんなお嬢さんを連れてくるかと、楽しみにしていたんですよ。」

「えっ?」

私は女将さんの顔を、初めて見た。

社長の事”お坊ちゃん”って言うから、年上の人なのかなと思ったら、そうでもない。

「社長さんが連れて来るお嬢さんって、綺麗な人ばかりだけど、どこかお金目当てなところがあるでしょう。でも、あなたはそんな感じじゃなくて。ああ、真田のお坊ちゃん、いい人を見つけたわと思っていたんだけど。」

お金目当てではない。

確かにそうだ。
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