推しの中の人があまりにも尊い!
十一話 トラウマは一生もの?


純「告白の返事、させて欲しい」


まっすぐにそう言った純
悠征は緊張した面持ちでごくりと唾を飲みこみ、


悠征「……ああ」


と答えた。
純は肩にかかった悠征の手を、両手でスッと下ろす


純「まずね。やっぱり悠征くんは誰に対しても距離近過ぎ。
優しいのは良いことだけど、女の子に触ってるの、すっごく嫌だった」

悠征「あ…………っ、ごめん、俺……っ」


“また癖のせいで嫌われる”
そう思って顔面蒼白になった悠征の顔を、パチンと純が両手で挟み、自分の方を向かせた
純の目が驚いた悠征の目を捉える


純「私気付いたの。これは嫉妬だって」

悠征「……へっ」


至近距離の純からは嫌悪が感じられず、むしろ前向きなものすら感じるその目に、悠征の目が釘付けになる


純「私ね。本当は悠征くんがみんなの前で普通にし始めた時、素直に喜べなかったの。
本当の悠征くんは私だけが知ってたのになって。
悠征くんが他の人に優しくするのも、他の人に触るのも、見たくないって思っちゃった」

悠征「そ……れって……」


悠征の唇が不安と期待に震える
絞り出すようなその声は、確かに純に届いた


純「そう。推しに嫉妬心なんて感じたことない。
悠征くんに対する気持ちは、推しじゃなくて……とっくに“好き”だった」


純がそう言って微笑むと、悠征の目からつうっと涙が溢れる

頬を包む純の手が、そっとその涙を拭った


純「私、すっごく心狭いよ。
癖だってわかってるけど、それでも他の女の子に触って欲しくないって思う。
だから、私と付き合ったら、今まで以上にその癖治さなきゃってなるかも。
それでもいい?」


ニッと笑う純
悠征は頬を包む両手に上から手のひらを重ね、


悠征「当たり前だ。
絶対……絶対治すから、俺と付き合ってくれ」

純「うん!」


2人で花が開いたように笑い合った





◾️場面転換
次の日、学校、昼休み
屋上で純、悠征、理沙の3人がご飯を食べながら、2人が付き合うまでの経緯を理沙に説明していた


理沙「まさか、エバスタの永遠がクラスにいるなんて……」

純「びっくりだよね」

理沙「びっくりどころじゃないでしょ!
最推しの中の人と付き合うことになるとか、どんな運命よ」

純「運命……」

悠征「運命か……」

理沙「うわ、ごめん今の言葉のあや。
そこで2人の世界に入るのやめて頼むから」


“運命”という言葉の響きに2人して反応し、お互いを見つめ出した純と悠征に、慌てて言葉を撤回する理沙


理沙「で?距離感がバグってる癖を治したいって?」

純「そう、そうなの。
私たちだけじゃ治す方法が思い付かなくて……」


ふーむと考え込む理沙
2人では治す方法が見つかりそうにないと判断した純たちは、理沙に解決策を考えてもらおうとしていた


悠征「もし純がそっちの方がいいっていうなら、人と関わらない方向に戻すけど」


平然とそう提案した悠征に、純の脳裏に返事をした時の自分の発言が蘇る


(回想)
純「私ね。本当は悠征くんがみんなの前で普通にし始めた時、素直に喜べなかったの」
(回想終了)


純「……流石にそこまでさせると心狭過ぎて自分のこと嫌いになりそうだから本気にしないでください…………」

悠征「そうか?」

理沙「あんたたち癖を治す約束から始まってんでしょうが。
本末転倒にも程があるっての」


両手で顔を覆って穴があったら入りたいというような純と、本気で“孤高”と言われていた態度に戻しかねない悠征に、呆れた目線を向ける理沙

一拍開けて、理沙がパンと手を叩いた




理沙「真中の癖矯正作戦その1!
触っちゃうなら物理的に触れなくすれば良いんだよ。
常に腕組み作戦!」


◾️場面転換
教室
生徒たちに対して、腕組みのまま対応する悠征


悠征「おはよう」
ずもも

悠征「ああ、そこに置いとけ」
ずももも

悠征「ここに置いてあったペン?知らねぇよ」
ずもももも


元から荒い口調と特に愛想が良いわけでもない顔、そこに腕組みが合わさって常に威圧感がすごい


理沙「腕組んだだけでなんでここまで威圧感出んの?」


純「あはは……」元々の目つきは確かに悪い方かも……






理沙「そんじゃあその2!
触っちゃった数だけ純から罵倒される!
罰ゲームがある分気をつけようって気になるはず!」

◾️場面転換
教室


悠征「おっと、わり」


悠征がぶつかって落とした消しゴムを拾い上げ、片手で女子生徒の手を掴み、もう片手でその手に乗せるという返し方をし、ほぼ手を握るような形で女子生徒を赤面させる悠征

◾️場面転換

純「手を握る必要ってあった?拾って返すだけでよかったんじゃない?だから女好きって言われるんだよ……」

悠征「…………」(女好き……)

純「…………」(私はなんてことを……)


理沙が書いたカンペをそのまま読み上げる純
すると、悠征はもちろん、なぜか純までかなりのダメージを受けてズーンと沈んでしまう


理沙「わかった、ごめん。
2人のピュアさを計算に入れてなかった。やめよう」


こめかみに手を当てる理沙





理沙「その3!
あらかじめ触れてたら新たに触れようって気も起こらないでしょ!
常に純と接触しておこう作戦!」


◾️場面転換
教室
自分の席に座る悠征
そこにさまざまな人がやってくる


女子生徒「真中くん、これ、先生が渡してって」

悠征「さんきゅ」

男子生徒1「悠征〜、こないだ貸した漫画今持ってる?」

悠征「ああ、わり、返すの遅れた」

男子生徒2「真中あとでメッセージ見といて〜」

悠征「了解」

純「………………」


クラスメイトと普通に話す悠征だが、その傍にはずっと純がおり、左手はずっと純の手を握っている


生徒たち(…………あれは一体どういう状況……???)


それを遠巻きに見て困惑する生徒たち


理沙「……確かに癖は出てないけど……見せ物感が強すぎるかな。却下」






理沙「その4!
そもそも近付かなきゃ癖も出ない!
半径1メートル守備作戦!」


◾️場面転換
教室
立っている悠征に歩み寄る、いつメン3人のうちの1人の男子生徒


男子生徒「あ、悠征さ」


近寄る男子生徒


悠征「何?」


一歩離れる悠征


男子生徒「?……いや、昨日勧めた曲聴いたかなって」


一歩遠ざかられたことを疑問に思いつつも、喋りやすい位置までまた近付こうとする男子生徒


悠征「あぁ、聴いた聴いた。歌詞が良いよな、元気出るっつーか」


近付かれた分だけ離れる悠征


男子生徒「そう……なんだけど、うん、え?何?なんで逃げる?」お前いつも距離近い方じゃん

悠征「いや……ごめん、気にするな」

男子生徒「全然無理だけど。すげー気になる。
………………、ほれ」

悠征「うわっ!!!」


イタズラ感覚で一足飛びで一気に距離を縮める男子生徒
それに飛び退く悠征
その反応を見て、男子生徒がニヤ〜とおもちゃを見つけたような笑みを浮かべる


男子生徒「なんだよなんだよ〜、ほれほれほれ!」

悠征「待て、来るなって、おい止まれ、おい!」


結局男子生徒に追い回される悠征という、ただ友達同士でふざけ合っているだけのような光景に
それを眺めている純と理沙


純「うーん……」あれはあれで楽しそうだけど

理沙「まー普通に接しながら1メートル保つのは無理だよねえ」そりゃ不自然になるわ






◾️場面転換
昼休み、屋上
また3人で弁当を食べる純、悠征、理沙


理沙「あーもー何そのあまりにもめんどくさすぎる癖」

純「面目ない……」

悠征「悪い……」

理沙「真中はともかくなんで純まで謝るのさ」


しょげる2人に呆れた視線を飛ばす理沙
はあ、と一つため息を吐くと、純粋に疑問を悠征にぶつける


理沙「てかさ、普通に考えて、自分がしてることをもし純がしたら嫌だなとか思わないわけ?」

悠征「純が?」

純「私?」


ピンと来ていない様子の2人に、理沙は続ける


理沙「例えばさ、真中あんたよく超至近距離で人の目見るじゃん。
まああんた的には視線合わせるっていうごく自然な気遣いのつもりなんだろうけど、でももし、純が他の男に対してそうやって顔近づけて話してても、何も思わない?」


理沙の言葉に、顔を顰める悠征


悠征「それは……すげーやだ」

理沙「それを判断基準にしなよ。
自分が取ろうとした行動一個一個を純に置き換えて、嫌だと思ったら死ぬ気で我慢する。
それで人並みの距離感は掴めるでしょ」

悠征・純「なるほど……」

神妙な面持ちで納得する2人




◾️場面転換
教室


悠征「プリント、頼む」

プリントを集める係の女子生徒に、直接の接触なく普通にプリントを渡す悠征


悠征「ははは、なんだよそれ!」

いつメンの男子生徒とスキンシップなしの適切な距離で話す悠征


悠征「俺やるよ」

黒板の高いところを消せずに困っていた女子に対して、今までなら後ろから距離を詰めて半壁ドンような形になって代わりに消してあげるくらいはやりそうなところを、事前に声をかけて女子に退いてもらってから自分が消す対応をする悠征





◾️場面転換
昼休み、屋上でご飯再び


純「すごい!普通になってる!!」

悠征「本当か!?」


手を叩いて喜ぶ純と、目を輝かせる悠征
理沙もうんうんと頷く


理沙「やればできんじゃない。
これからは純にさせられるかで判断すること!」

悠征「うす、師匠」

理沙「やめて気持ち悪い」2度とそれで呼ばないで


悠征のかしこまった様子にゾワっと鳥肌を立てる理沙
純は笑顔で悠征に話しかける


純「やったね」

悠征「ああ、これならもしかしたら行けるかもしれねえ」


悠征は希望に満ちた顔で、何かを決意したようにグッと拳を握る


純「行けるって?」

悠征「実は……」



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