推しの中の人があまりにも尊い!
十三話 遠くの人影




悠征「……送って貰えば」

純「え………………」


感情に蓋をしたような表情でそう言った悠征に、困惑の表情を浮かべる純
悠征は取り繕うように言葉を続けた


悠征「幼馴染なんだろ。
せっかく再開したんだし、話しとけよ」

純「……うん、そうだね。そうしようかな」


納得はいっていないが、悠征の不機嫌を感じ取って引き下がる純


佑月「…………なるほどなあ」


佑月はその様子見て、本当は悠征が「恋愛に興味がない」わけじゃなくて、純のことを好きであると察し、誰にも聞こえない声量でボソリと呟いた





◾️場面転換
悠征と別れ、2人で帰路を歩く純と佑月
純も佑月も笑顔で昔話に花を咲かせている


佑月「その時母さんがなんて言ったか覚えてる?」

純「えっなんだっけ?」

佑月「『純ちゃんに怒られるわよ!』って。
俺母さんに怒られるよりそっちの方が怖かったからなあ」

純「あはは!そういえばゆっくんのお母さん、よくそうやって言ってたね。懐かしい!」

佑月「純ちゃんと再会したって言ったら、きっと母さん喜ぶだろうな」

純「そうだね。私のお母さんも喜びそう」


ふふ、と2人で笑って、話題が途切れる
途端に純の顔がわずかに曇ったのを見て、佑月はまた口を開いた


佑月「……どうかした?」

純「えっ?」

佑月「純ちゃん、さっきからなんか元気なさそうだから」

純「……ごめん、せっかくまた会えたのに」

佑月「全然それは気にしなくて良いけど。
もしかして永遠のこと?」


佑月の言葉に、眉を下げて素直に答える純


純「うん……。さっきの悠せ……あ、永遠くん、すごい不機嫌そうだったから。私、何かしたかなって……」

佑月「悠征でいいよ、俺たちお互いの本名は元々知ってるし」

純「そうなの?」

佑月「うん。なんとなく2人とも癖でそのまま呼んでるだけ。
それに、さっきの永遠の態度、あれは多分純ちゃんのせいじゃないと思うよ。
なんていうか……永遠の問題だと思う。なんとなくだけどね」

純「そうかな……」


そのまま黙る2人
少し間が空いて、また佑月が口を開く


佑月「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど。
純ちゃんと永遠って付き合ってたりする?」

純「えっ!?」


唐突な質問に純はドキンと心臓が跳ね、飛び上がるように佑月に顔を向ける
と同時に、脳内にあの約束がよぎる

(回想)
悠征「俺たちはたまたまクラスが一緒だったVtuberと絵師ってことにしよう」
(回想終了)


純「う、ううん、ただのクラスメイト……」

佑月「ふーん……?」


胸がチクリとしながらも顔を逸らしてそう答えた純に、悠征の隠していることがここにも影響しているなと感じた佑月は、純に一つの提案をする


佑月「ねえねえ、一個提案があるんだけど———」



(補足)(実はもうすぐ悠征の誕生日なので、サプライズで誕生日会をしようという提案。
悠征が恋愛面を隠そうとしているのは明白なので、誕生日会の準備で純と佑月が一緒にいることを匂わせて、焦らせて本音を言ってくれるように促そうとしている。
純はその思惑には気付いておらず、ただ悠征の誕生日を祝いたいがためにその話に乗る)





◾️場面転換
次の日以降、学校

悠征「純、俺日直があるから」

純「ごめん!今日急ぎで帰らなきゃいけなくて……先に帰ってても良い……?」

悠征「……あ、ああ。わかった」

初めてのことに呆然とする悠征と、一緒に帰らず、パタパタと1人で急いで帰っていく純




◾️場面転換
学校

悠征「……ってことがあって」

純「…………」

悠征「……純?」

純「えっ!?あっ、ごめん……早めに返信した方がいいメッセージ来てて……」

悠征「いや……いいけど」

悠征といる時もやたらとスマホで誰かとやり取りをしている様子の純




◾️場面転換
学校

悠征「純、次の土曜暇?
暇だったらどっか行かねぇ?」

純「ごめん、次の土曜日は……えっと、家のことでやらなきゃいけないことがあって!」

一瞬目が泳ぎつつ、悠征の遊びの誘いを断る純





◾️場面転換
土曜日、悠征の家


悠征(…………純が足りねえ)


悠征はパソコンの前で机に肘をつき、頭を抱えながら悶々としていた


悠征(家のことで忙しいのは仕方ねぇけど、寂しい……)


悩みながら手元のペットボトルのコーラを煽る
すると飲み切ってしまい、冷蔵庫に新しいものを取りに立ち上がる


悠征(……って思っちまうのは面倒な男か……?)


冷蔵庫を開くと、そこにコーラはない


悠征「うわ、最後の一本かよ。買いに行くか……」





◾️場面転換
コンビニ
悠征は数本のコーラを袋に入れ、コンビニから出てくる


店員「ありがとうございましたー」

悠征(そろそろ肌寒くなってきたな)


悠征は腕を軽くさすりながら、何気なく駅の方を見た
すると、遠くに純らしき影が見える


悠征(…………純?)


思わず目で追う悠征
純らしき人影は何かを見つけたように駆け出し、手を振りながら人に近付いていく
その相手は、佑月らしき人だった


悠征「…………は?」


2人は並んで雑踏の向こうに消えていく
悠征は慌てて走り出し、2人を追いかける


悠征(だって、純は家のことって。
なのに、なんで星月と)


ぐちゃぐちゃの思考のまま駅にたどり着くも、そこにはもう2人はおらず、完全に見失ってしまった


悠征(見間違いか……?いや、そんなはず)

悠征「クソッ…………」


ギュウと拳を握りしめて呟いた声は、人混みの中に小さく消えていった





◾️場面転換
悠征の家
パソコンの前に悠征が座っており、いつも通り配信をしている
今日は1人雑談配信で、コメントとやり取りをしながら笑って話をする悠征


悠征「そうなんだよな〜、もう11月って早くね?
ついこないだまで夏だったろ」

コメント『わかる』

コメント『もう今年あと2ヶ月とか怖いこと言わないで』

コメント『あと1ヶ月でクリスマスやん』

悠征「クリスマス?やば、去年の死にゲー耐久思い出した」

コメント『クリスマス1日潰れたやつなwww』

コメント『今年は何やるの?』

コメント『俺らのこと見捨てないよな?今年も永遠はぼっちだよな?』

悠征「……バカ、俺はぼっちじゃねーよ、友達いるわ。
けどそれよりお前らと一緒にいたいから、そのために予定空けてんです〜」

コメント『永遠様最高ぼっちの味方』

コメント『はあ、今日もスパダリ尊い』

コメント『私たち全員の永遠くんだもんね♡』

コメント『今年はあっつあつの恋愛話募集してぼっちの心抉る配信しようぜ』

永遠「———」


軽快に会話をしていた悠征だが、コメントに『恋愛』という文字を見て一瞬顔に影を落とす
そして、ごくりと唾を飲み込み、意を決した顔で、けれど口調は平然と、リスナーに心境がバレないように話を切り出す


悠征「———恋愛、といえばさあ。
こないだ友達に相談されたことがあんだけど、俺マジで恋愛わかんねぇからリスナーの助言欲しくて」

コメント『何々?永遠くんから恋愛話出てくるの珍しいじゃん』

コメント『なんでも言ってみろよ、俺が解決してやる!』

コメント『助言リスナーに頼んで大丈夫?ぼっち集団だよ?w』

悠征「なんかさ、友達の彼女が“家族との予定がある”って友達との遊び断った日に、違う男と一緒にいるの見かけちゃったらしいんだけど、これってどう思うみんな」

コメント『え〜普通に浮気じゃん?』

コメント『友達カワイソ』

コメント『実はお兄ちゃんとかそういうオチない?』

悠征「いや、相手確実に血縁じゃない。友達の彼女と……えと、同じ小学校だったやつだったんだって」

コメント『昔馴染みってやつか』

コメント『クロだね』

コメント『早く別れたほうがいい』


コメントを見て、悠征は一瞬顔を泣きそうに歪めたあと、ふると首を振って感情を振り払い、なんでもないように続けた


悠征「…………そか。わかった、友達に伝えとくわ。

あ、そろそろいい時間だからここら辺で。
今日も来てくれてさんきゅ、また明日な」

コメント『おつ〜』

コメント『また明日!』

コメント『友達慰めてあげてね( ; ; )』


悠征はいつも通りに配信停止ボタンを押し、配信を切る
配信完了画面を確認し、しっかり配信が切れていることを認識すると、途端にボロっと涙が溢れた


悠征「っ…………」


椅子の上に両足を上げ、体育座りの形になって膝に顔を埋める悠征
その肩はふるふると震えている


ピロン♪


しばらくそうしていると、隣にあったスマホがメッセージを受け取った通知音が響き、悠征がビクリとして顔を上げる
スマホ画面を見ると、そこには純からのメッセージが届いた旨が表示されており、ガタンと音を立てて悠征は俊敏にスマホを手に取った

しかし、中身を見るのが怖くて、タップしようとしてはやめる動作を何度か繰り返す

それから、意を決してメッセージアプリを開いた


純『11/14の放課後、予定空けてもらえないかな?』

悠征「………………」

悠征(別れ話……じゃないよな……)


一抹の不安を覚えながらも、悠征はベッドまで歩き、


悠征『わかった』


とだけ返信して、スマホを放ってベッドに突っ伏した



(補足)(実はこの配信は純も見ており、自分のことだとすぐに気付いて佑月に電話をかけて相談している。佑月は本音が聞きたいこともあり、誤解はサプライズを見せて一緒に説明するのが1番手っ取り早く解けるからそうしようと提案。とりあえず今は誕生日当日の誘いだけを、誕生日を知らない体で純から誘うように促した)



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