推しの中の人があまりにも尊い!
十四話 親友に本音を
11月14日 サプライズ誕生日会当日
街中
(補足)(純と星月は小さなカフェを貸し切り、飾り付けを全て終わらせて悠征を待っている)
純から送られてきた住所のカフェの近くまで来た悠征
キョロキョロと辺りを見回し、地図と見比べる
悠征(ここの道を右か?)
右に曲がると、カフェの前に立って悠征を待つ純の姿が見えた
近頃は一緒に過ごす時間が少なかったこともあり、その姿に嬉しくなった悠征は、駆け寄ろうと一歩を踏み出した
悠征「す……」
佑月「純ちゃん、ちょっといい?」
名前を呼ぼうとしたその瞬間、カフェから佑月が姿を現し、悠征は思わず電柱の影に身を隠す
(補足)(佑月はカフェ内から悠征の姿を確認して、悠征がそこにいることをわかった上でタイミング良く出てきた。
純はまだ悠征に気付いていない)
久々に2人きりで会えると思っていた悠征は、佑月もいることを知ってズキリと胸を痛める
(悠征)(……また佑月かよ)
隠れてしまった手前出るタイミングを見失い、ただ電柱の後ろで俯く悠征
そこには2人の会話がよく聞こえてきた
純「どうしたのゆっくん」
佑月「うーん、実はね。
悠征が来る前に言っておきたいことがあって」
そう言って、佑月はチラリと悠征の人影がほんの少しだけ見える電柱を確認し、何も知らないふりをして純に向き直った
佑月「俺、純ちゃんのことが好きなんだ」
悠征「っ!!」
唐突な告白に、その場で目を見開く悠征
純もまた、驚いた表情で佑月を見ていた
純「す……好き、って」
佑月「昔、隣に住んでた時からずっとだよ。
俺の初恋は純ちゃんで、会えなくなってもずっとずっと忘れられなかった。
だからこないだ再会できた時は運命だって思ったんだ」
純「…………」
ぎゅっと純の手を両手で掴む佑月に、何も言えなくなる純
佑月「だから純ちゃん、俺とつ———」
付き合って、そう言葉になる前に、駆け出した悠征がバッと純を抱き寄せた
悠征の余裕のない顔が佑月に向けられる
悠征「純と付き合ってるの、俺だから」
純「悠征くん……!?」
純にとっては突然の悠征の登場に、目を丸くしながら悠征の腕の中に大人しくおさまっている純
佑月は引かない様子で悠征をまっすぐ見つめた
佑月「でも、永遠って恋愛には興味ないんだろ?
1人を好きになることはないって言ってたじゃん」
悠征「それは……っ」
痛いところをつかれ、一瞬視線を逸らす悠征
しかし、ぐっと拳に力を入れると、すぐに佑月に真っ直ぐ向き直った
悠征「……俺、本当はお前が思ってるようなやつじゃないんだ」
覚悟を決めた悠征が、ゆっくりと言葉を紡ぐ
悠征「俺は昔から人との距離感が上手く掴めなくて、リアルで人と接することにトラウマがあって……お前と会うのをなんだかんだ理由つけて断ってたのも、全部それのせいだ。
ネットでは上手く取り繕ってたけど、本当はリアルに友達なんか1人もいないし。
恋愛も興味ないんじゃなくて、ただ俺には無理だって思ってた」
悠征の脳裏に人に拒絶されてきた過去が蘇る
しかし、悠征はもう怯むことはなかった
腕の中にいる純の手を、ぎゅっと握った
悠征「でも最近、純のおかげでトラウマが軽くなって、また人と関わってみようって思えて。
クラスにも友達ができて、リアルが何十倍も楽しくなった」
クラスのいつメン3人とふざけ合っているところや、純と理沙と屋上で癖を治す会議をしていたことを思い出し、ふ、と悠征は優しい笑みを浮かべた
悠征「だから、俺は純が好きだ。どうしようもなく。
俺は星月、お前を……親友だと思ってるけど、純だけはお前相手でも譲りたくない」
純「……悠征くん……」
佑月「………………」
悠征の言葉にじんわりと胸が暖かくなる純と、ただじっと悠征の目を見つめる佑月
その目線の先が、純に移った
佑月「……純ちゃんは?」
佑月と純の目がバチリと合う
純もまっすぐと、その目を見つめ返した
純「嘘ついちゃってごめん、ゆっくん。
私たち、本当はただのクラスメイトじゃなくて……私も悠征くんのこと、どうしようもないくらい好きなんだ」
ふにゃ、と幸せそうに笑った純
その顔を見て、佑月は満足そうに笑った
そして直後、パン!と大きな音を立てて顔の前で佑月が手を合わせた
佑月「ごめん!今の告白、嘘です!」
純「えっ?」
悠征「はっ?」
佑月「俺知ってたもん。2人が付き合ってるの」
純「えええええ!?」
悠征「はああああ!?」
手を横にずらし、てへっと舌を出す佑月に、シンクロするように声が重なる純と悠征
その様子に、佑月の顔がいじけたようにぷくっと膨らむ
佑月「いやねおたくら、永遠は俺が純ちゃんの話すると目に見えて不機嫌になるし、純ちゃんは俺といてもずっと永遠のこと気にしてるし、逆にバレないわけなくない?
隠すならもっと上手く隠してよ」
純「うっ……」
悠征「…………」
恥ずかしくなって縮こまる純と、同じく目を逸らす悠征
佑月は顔を元に戻して、また真剣さを帯びた目で口を開いた
佑月「本当、騙すようなことしてごめん。
でも俺、マジで永遠のこと同業者として尊敬してるし、俺も親友だと思ってんの。
だから、なんでも話して欲しいし、今更何知ったって俺たちの関係はそう簡単に崩れないって……思ってる、んだけど、もしかして今の嘘告白で信用落ちた?
親友取り消しになる!?」
悠征「馬鹿。んな簡単に取り消すかよ」
急に自信なさげな口調になった佑月のおでこを、悠征がベシッと軽く叩いた
佑月「へへ、だろ?
それと同じで、俺だってそう簡単に取り消さないからさ」
佑月はいっそう思いを込めた瞳で悠征を見つめ、綺麗に笑って拳を差し出した
佑月「俺相手に取り繕わないでよ、“悠征”」
それを見て、悠征も嬉しそうに微笑むと、
悠征「ああ。ありがとう、“佑月”」
コン、と、佑月の拳に自身の拳を押し当てた
純もつられて笑顔になり、3人で笑い合う
パンと佑月が手を叩いた
佑月「さ!それじゃあ入ってお祝いしよ!」
悠征「お祝い?」
純「そうだね!ほら、悠征くん入って入って」
ピンと来ていない様子の悠征を、カフェの店内に促す2人
悠征が中に入ると、パチンと電気をつけ、2人はクラッカーを発射した
純・佑月「ハッピーバースデー!!!」
明るくなった店内は至る所に紙飾りがかけられており、真ん中には『悠征お誕生日おめでとう』と書かれた垂れ幕がある
そこでやっと、自分の誕生日が今日であることに気付く悠征
悠征「もしかして、最近純が忙しかったのって」
佑月「そ!全部これの準備!
紙飾りいっぱい作るのちょ〜大変だったから!」
純「こないだの配信見たけど、不安にさせて本当にごめん。どうしてもサプライズしたくて」
純にそう言われ、純が元々自分のリスナーであったことをすっかり忘れていたことに気が付く悠征
悠征「え゛っ……そうだった、お前俺のリスナーか……!
ちょっと待て、本人に恋愛相談見られたってこと?
マジで恥ずかしすぎるんだけど」
佑月「裏で会議開いてたから。誤解どうしようって」
(回想)
配信を聞いた2人が「誤解されてる!」と焦って通話している風景
(回想終了)
悠征「うわ……穴があったら入りてえ……」
佑月「ともかくさ!2人で頑張って準備したから、いっぱい楽しんでってくれよ!」
◾️場面転換
3人での誕生日パーティーが始まる
誕生日ケーキの蝋燭を吹き消す悠征
佑月が唐突に悠征にパイ投げを行い、悠征が「いい度胸だ」と言わんばかりの顔で佑月に投げ返し、パイ投げ合戦が始まったのを見て笑い転げる純
かと思えば悠征が投げたパイがノーコンで純に当たり、心配そうにそちらを見る悠征と佑月
純は無言でスプレー缶を使って特大のパイを作ると、佑月が察して悠征を後ろから逃げられないようにホールドする
焦る悠征、ジリジリと近寄る純
純は特大のパイを思いっきり悠征に浴びせた
3人で大笑いして、パーティは盛り上がっていった
◾️場面転換
パーティも片付けも終わり、夕方の帰り道
「邪魔者はお先に!」と楽しそうに走って帰っていった佑月とは別れ、純と悠征が2人で道を歩いている
純「は〜〜〜、楽しかった!」
悠征「な」
大満足な笑顔を浮かべる2人
悠征「ありがとな、準備してくれて。
自分の誕生日なんてすっかり忘れてたから、びっくりした」
純「えぇ?忘れることある?」
悠征「Vの方の誕生日は毎年記念配信取って祝うけど、本当の誕生日はほら、俺リアル友達ゼロだっただろ。
あっても親からメッセ来るくらいだし、あんま祝うって感じじゃなくてさ。
なんなら佑月に言ったことすら忘れてたわ」
そう言って苦笑した悠征に、純は笑顔を返した
純「そっか。じゃあ祝えてよかった!
来年も一緒に祝おうね」
悠征「……来年」
当然のように来年も、という純に、じわりと愛しさが溢れる悠征
ゆっくり立ち止まり、夕日のせいか、赤く染まった頬で純を見つめる
悠征「あのさ」
純「ん?何、悠征くん」
純も立ち止まり、悠征を振り返った
悠征「……今から俺んち来ない?
誕生日終わるまで、2人で過ごしたい」