数打ち妃は悪女の巣窟を謳歌する〜太夫、傾国の娼妓ときて、今世は悪妃ですか

5.最期は爺

「あう、あうあうあー」
(ああ、瞼が重いですー)
「ふふふ、もうおねむちゃんだね。爸爸(パパ)の寝かしつけは師範並みさ」

 まったくもってこの父親。どんどんと手慣れてきて、今では揺り籠より余程、心地良いリズムと揺れを体現するようになっております。

 ああ、二代目の私が奮起した幼き頃が夢に……。

 (わたくし)は実態調査と太夫の知識、初志貫徹完遂との覚悟を胸と頭に携えて、まずは花街の娼館へ向かいました。姐さんを見つける為ですが、そこで働く為ではございません。彼女達の上にあたる私娼への伝手(つて)を取りつけようと考えました。

 娼館で働けば間違いなく公娼になってしまいますから、それでは家族を守れません。娼妓としての価値観は、初代の国とは真逆。公娼よりも、私娼の方が地位が高いのです。

 それ故に多くの教養、人心掌握術が求められます。特にパトロンの地位が高くなる程、政治や経済にも精通していかなければなりません。

 もちろん目論見は成功しましたよ。私娼と縁を持ち、彼女達の開く沙龙(サロン)……小さな茶会や学士達の交流の場まで幅広い会でしたけれど、そこで身分の高いパトロンとのご縁を繋げてまいります。

 それによって結果的には戦争の回避に一役買いましたから、人とのご縁は馬鹿にできませんね。

 他にも孤児院の運営、商会の設立等を行いました。私娼としては十分に羽根を伸ばし、羽ばたいた生き方をしたものです。

 私、なかなか頑張りましたでしょう。

 ただ、結局は前世の太夫の頃の延長線。正直、通算何十年もやっていれば飽きませんか?

 私が飽き始めた頃、よりによってパトロンだった自国や他国の国王陛下をはじめとして、多くの高位貴族の殿方達から公娼ではなく立場ある方にのみ認められる公妾・や妻を望まれるように。私娼が公妾なんて、洒落にもなりません。

 挙げ句には高価な贈り物競争に、妻たる御婦人方を蔑ろにされる最低な殿方まで……。

 引き際は大事です。人に囚われるならば、前世で慣れ親しんだ(くるわ)のような場所が良いと、娼館の娼妓、つまりは公娼へと転身致します。

 しかし高位貴族だけでなく、国王陛下までが娼館に列を成すという不祥事案件が……。

 とうとう国が傾きそうになり、傾国の娼妓とまで呼ばれるようになって、ようやく決意したのです。

 そうだ、私を殺してしまおう。

「飽きた」

 誰に愛を囁く事なくそう告げ、娼妓たる私を殺して次なる計画へと移りました。

 私の死によって熱が冷めた花街は閑散としましたが、むしろ好都合。買っておいた花街の中でも随一のボロ娼館に移り住み、名もなき爺に特殊な化粧で変身。

 そこからは、いえ、そこからもですね。私は今振り返れば、実は残り少なかった二代目第二の人生を謳歌致しました。

 運営は問題なく、がっぽり儲けましたよ。やり手爺として名を馳せましたから。

 でももっと広い世界を見たくなり、拾った孤児に娼館を押しつけて爺は老衰死した(てい)に。海を渡って異国の地へ。

 で、最期は事故に巻きこまれて呆気なく四十年程の人生に幕を下ろしたのです。

「ふみゅ……。あうあああ、はわはわはわは、わうわわわ」
(ふむ……。生ききった、前の人生、悔いはなし)

 ふふふ、転生したからこそ夢で振り返る前世を詩にしてみました。まだまだヤワヤワ脳ではここが限界ですね。

「んう〜」
「ふふふ、可愛い滴雫(ディーシャ)。パパがあらゆる害虫から守ってあげるから、安心してお眠り」

 左様ですね。一度寝ないと瞼を開くのはもう難しそう。今世も両親に愛されているというのは……何とも心地良いものです。

 でも……害虫って何で、す? お布団でしたら……天日、干しに…………スヤァ。
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