[書籍化、コミカライズ]稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ
1章

1.楽しい夕食会

「我がロブール家の恥晒し!
学園で落第点すれすれの無教養に加えて魔法もまともに使えないなんて!
お前など産まなければと何度思ってきたことか!」
「うふふ、左様ですの?」
「ラビアンジェ!!!!」

 バン、と両手のナイフとフォークをテーブルに叩きつけ、甲高く私の名前をヒステリックに叫ぶのは()()の実母であるルシアナ=ロブールよ。

 きつめな顔立ちだけれど前世では懐かしの黒髪に、菫色の瞳が似合う美人さん。
なのに、怒りのままに睨みつけるお顔が残念ね。
何だかもったいないわ。

 それにしても音を立て過ぎではないかしら?

 なんて思いつつも、微笑みながら気にせずステーキを一口大に切って口に運ぶ。

「美味しい」

 ほぅ、と息を漏らせば、お肉とスパイスの薫りが鼻から抜けてなお良しね。

 本日の焼き加減は()()()だわ。
仲の良い方の料理長が当番だったのね。
こないだ教えたハーブソルトを上手く使ってくれて嬉しいわ。
私好みでとっても美味よ。

 先月の月に1度の家族での夕食会はお母様お気に入りのもう1人の料理長の担当だったわ。

 私のお皿のハンバーグだけ表面の焦げた野生猪肉100%。
味つけ無しで中は超レア・オブ・レア。
ほぼ生肉ハンバーグをあのまま食べていたら、きっとお腹を下していたでしょうね。

「母上、食事中ですよ。
だがお前がいつも教育から逃げ、学園の成績が悪いのも確かだ。
仮にもお前は我が国の第2王子の婚約者だと自覚しろ。
魔力も低くて魔法も満足に使えず、無教養なお前が私の妹であるという事実が恨めしい」
「あら、実妹であるのをお認めになるなんて。
ありがとうございます、お兄様」
「兄と呼ぶな」
「あなた?」
「ラビアンジェ」
「あらあら?」

 対面の母には注意、左隣の私には咎めるような低音ボイスを使い分けるのは、()()の実兄であるミハイル=ロブールよ。

 もちろんお母様と違ってマナーの範囲内の声量ね。
心地良い声質に内容が入ってこなかったわ。

 父の金髪と母の瞳を継いだ顔立ちは前世の世界で流行っていた乙女ゲームの攻略対象者のように格好良いわ。
切れ長の目元が涼やかなクール系美男子19才。
私の3つ年上で、来年の春に貴族と一定の税を納める平民が義務として通う王立学園を卒業予定なの。

 ちなみに富裕層以外の平民向けに、10才から入学可能な学園もあるのよ。
そこでは基礎的な教養の他に実務経験を学べるの。
前世の世界の職業訓練学校のようね。

「……ふぅ」

 にこり。

 小さくため息を吐いて手にしたナイフとフォークを置いたのは、祖父の金髪と祖母の藍色の瞳を継いだ()()の実父であるライェビスト=ロブールよ。

 妻と息子の間、コの字に座るテーブルの上座がお決まりの席なの。

 そんな父は兄が年を取ればこうなるんじゃないかってくらい、よく似ているわ。
左の目元の泣き黒子がセクシーなクールガイね。

 ロブール家当主にして、このロベニア国の魔法師団のトップに立つ魔法師団長でもあるわ。
魔法以外には家族についても基本無関心なマイペースパパね。

 政略結婚だからか、祖父母と違って愛の無い夫婦仲よ。
前当主であるお祖父様の厳命で開かれる、月に1度の家族揃っての夕食会が無ければ一生お目にかかる事はないんじゃないかしら?

 淑女の微笑みを投げてみたけど無表情で、いつも通り反応は無かったわ。

 というよりもこの状況に不機嫌になっているのかしら?
柳眉な眉が少しだけ顰められてしまったわ。

「お父様、どうかお母様とお兄様を止めて下さいませ」

 そんな義父にオロオロと縋るようにして義母の右隣で対面の私を擁護しようと振る舞うのは、()()の実従妹であるシエナ=ロブール。

 実の両親の色を掛け合せたピンクブラウンの髪と、母譲りらしい緑の瞳が今日も映えているわ。

 ちなみに今は亡き伯父様は私と同じくお祖母様のピンクブロンドの髪色と藍色の瞳よ。
肖像画で見たの。

 従妹で義妹は私と1つ違いの15才。
先月私とお兄様も通う4年制の王立学園に入学したビッチビチの新入生よ。
遠方に住む学生とは違って私達と同じく自宅通学ね。
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