[書籍化、コミカライズ]稀代の悪女、三度目の人生で【無才無能】を楽しむ
10.少なくとも立場は下ではないのよ
「急に動かしたり重い物を持ったりすればぶり返す。
数日は安静にしておけ」
「ふふ、ありがとうございます」
ちゃんと治してもらえた事にほっとする。
不遜だけれど無才無能だからと偏見を行動に移す人でなくてよかったわ。
いつもより自然な笑みを向けてから教室へと戻ったわ。
「そんな顔もできんのかよ」
だからその後保険医がどんな顔をしていたのか、もちろん知る由もないわ。
余談だけれどうちのキャスちゃんがこの時こっそり見てたと知ったのは、もっとずっと後よ。
心配してくれてたのね。
うちの子はとっても可愛いんだから。
そして授業も恙無く終わり、待ちに待った放課後。
「殿下、参りましたわ。
これ、診断書の控えです。
今回は生活に直接的被害が出ましたので、殿下のポケットマネーから慰謝料を下さいな」
もちろん診断書を受け取れば、その日の放課後には孫を捕獲しに行くわよね。
今なら1年生は補講授業中で生徒会役員の従妹で義妹の邪魔は絶対無いもの。
最終学年のお兄様も生徒会役員なのだけれど、今日は卒業後の就職先候補の就職説明会でいないの。
孫とお供君はもう就職先は決まっているから関係ないのでしょうね。
「はあ?!
何のカツアゲだ!
シュア、無視しろ!」
まあまあ、カツアゲだなんて。
それに随分と喧嘩腰ね。
鉄分足りてないのかしら?
執務机に座る孫の後ろから背の高いお供君はひょい、と置いた診断書を奪ったら、ビリビリと破いて紙吹雪を私に投げつける。
あらあら、惜しかったわね。
紙吹雪の大半が空気抵抗で私に当たらず、机に散らばったわ。
誰が掃除するのかしら?
孫は顰めっ面ではぁ、とため息を吐いたわ。
「構わん。
いくら欲しい」
「シュア?!」
「俺がこの無能に公衆の面前で危害を加えた。
教師達も目撃している。
ここは基本的には王家の権力的な介入を許さない学園だ。
あの王家の恥部たる稀代の悪女の一件もある。
いくら欲しい」
前々世の私、今度は恥部扱いね。
それよりも……。
ふむ、と少しだけ様子の変わったようにも感じる孫を観察する。
「そうですわね……それではこのロベニア国第2王子の正式な婚約者たるラビアンジェ=ロブールに相応しい慰謝料の額をご提示下さいな」
「貴様、調子に……」
お口が悪いお供君ね。
1度はっきりさせましょうか。
「四大公爵家であるアッシェ家第3公子。
私は誰です?」
「はぁ?!」
怪訝なお顔にガラの悪いダミ声だこと。
彼もあちらの世界の乙女ゲームの登場人物になれそうな程には美男子なのに、残念ね。
キャラでいけば……そうね……喜怒哀楽のはっきりしたワンコ系騎士見習いね。
赤髪の騎士とか、そんな感じかしら?
キラキラしてる空色の瞳がチャームポイント、的な?
「何が言いたい!」
まあまあ、つい物思いに耽ってしまったわ。
それにしても王子は珍しくだんまりね。
瞳に敵意は宿してはいるけれど……何故だか私の様子を窺っているのかしら?
こんな事は初めてね?
まあいいわ。
視線をお供君に戻す。
「おわかりになりませんの?
四大公爵家であるロブール家第1公女であり、ロブール家当主の血を確実に継いだ2人の嫡出子の内の1人であり、あなたが本来仕えている王家の王位継承権を持つ第2王子殿下がどれほど撤回、差し替えを求めていても、現状では王家が認め続ける正式な婚約者。
それが私ですの。
私の立場はあなたより下だと?
何より婚約の当事者の1人である殿下の意思を受理せず、王家が継続させている婚約者でしてよ?
殿下の意志と同じく、王家の意向も私を軽んじているとでも仰るのかしら?」
「そ、れは……」
きちんと正して宣言されれば、下だとは言えないわよね?
ふふふ、悔しそうね。
可愛いワンコ君だわ。
「私は少なくともあなたより下の立場ではないはず。
そして私は1度として、少なくとも立場が上ではないあなたを貶めた事はないわ。
違いまして?」
「っぐ……」
絶句する。
そうなるわよねえ。
どちらかというと王子の婚約者である私の方が本来は立場が上になるもの。
あなたの私への態度は本来ならそれほどに酷く、常識からも騎士の本分からも外れているのよ?
ここが学園であなた達が学生という立場だからこそ、私が何もしなければ大きな問題にならない。
ただそれだけ。
でも全ては私次第。
現状を正確に理解できたかしら?
不意にこれまで静観していた孫がお供のワンコ君を制するように腕を上げたわ。
数日は安静にしておけ」
「ふふ、ありがとうございます」
ちゃんと治してもらえた事にほっとする。
不遜だけれど無才無能だからと偏見を行動に移す人でなくてよかったわ。
いつもより自然な笑みを向けてから教室へと戻ったわ。
「そんな顔もできんのかよ」
だからその後保険医がどんな顔をしていたのか、もちろん知る由もないわ。
余談だけれどうちのキャスちゃんがこの時こっそり見てたと知ったのは、もっとずっと後よ。
心配してくれてたのね。
うちの子はとっても可愛いんだから。
そして授業も恙無く終わり、待ちに待った放課後。
「殿下、参りましたわ。
これ、診断書の控えです。
今回は生活に直接的被害が出ましたので、殿下のポケットマネーから慰謝料を下さいな」
もちろん診断書を受け取れば、その日の放課後には孫を捕獲しに行くわよね。
今なら1年生は補講授業中で生徒会役員の従妹で義妹の邪魔は絶対無いもの。
最終学年のお兄様も生徒会役員なのだけれど、今日は卒業後の就職先候補の就職説明会でいないの。
孫とお供君はもう就職先は決まっているから関係ないのでしょうね。
「はあ?!
何のカツアゲだ!
シュア、無視しろ!」
まあまあ、カツアゲだなんて。
それに随分と喧嘩腰ね。
鉄分足りてないのかしら?
執務机に座る孫の後ろから背の高いお供君はひょい、と置いた診断書を奪ったら、ビリビリと破いて紙吹雪を私に投げつける。
あらあら、惜しかったわね。
紙吹雪の大半が空気抵抗で私に当たらず、机に散らばったわ。
誰が掃除するのかしら?
孫は顰めっ面ではぁ、とため息を吐いたわ。
「構わん。
いくら欲しい」
「シュア?!」
「俺がこの無能に公衆の面前で危害を加えた。
教師達も目撃している。
ここは基本的には王家の権力的な介入を許さない学園だ。
あの王家の恥部たる稀代の悪女の一件もある。
いくら欲しい」
前々世の私、今度は恥部扱いね。
それよりも……。
ふむ、と少しだけ様子の変わったようにも感じる孫を観察する。
「そうですわね……それではこのロベニア国第2王子の正式な婚約者たるラビアンジェ=ロブールに相応しい慰謝料の額をご提示下さいな」
「貴様、調子に……」
お口が悪いお供君ね。
1度はっきりさせましょうか。
「四大公爵家であるアッシェ家第3公子。
私は誰です?」
「はぁ?!」
怪訝なお顔にガラの悪いダミ声だこと。
彼もあちらの世界の乙女ゲームの登場人物になれそうな程には美男子なのに、残念ね。
キャラでいけば……そうね……喜怒哀楽のはっきりしたワンコ系騎士見習いね。
赤髪の騎士とか、そんな感じかしら?
キラキラしてる空色の瞳がチャームポイント、的な?
「何が言いたい!」
まあまあ、つい物思いに耽ってしまったわ。
それにしても王子は珍しくだんまりね。
瞳に敵意は宿してはいるけれど……何故だか私の様子を窺っているのかしら?
こんな事は初めてね?
まあいいわ。
視線をお供君に戻す。
「おわかりになりませんの?
四大公爵家であるロブール家第1公女であり、ロブール家当主の血を確実に継いだ2人の嫡出子の内の1人であり、あなたが本来仕えている王家の王位継承権を持つ第2王子殿下がどれほど撤回、差し替えを求めていても、現状では王家が認め続ける正式な婚約者。
それが私ですの。
私の立場はあなたより下だと?
何より婚約の当事者の1人である殿下の意思を受理せず、王家が継続させている婚約者でしてよ?
殿下の意志と同じく、王家の意向も私を軽んじているとでも仰るのかしら?」
「そ、れは……」
きちんと正して宣言されれば、下だとは言えないわよね?
ふふふ、悔しそうね。
可愛いワンコ君だわ。
「私は少なくともあなたより下の立場ではないはず。
そして私は1度として、少なくとも立場が上ではないあなたを貶めた事はないわ。
違いまして?」
「っぐ……」
絶句する。
そうなるわよねえ。
どちらかというと王子の婚約者である私の方が本来は立場が上になるもの。
あなたの私への態度は本来ならそれほどに酷く、常識からも騎士の本分からも外れているのよ?
ここが学園であなた達が学生という立場だからこそ、私が何もしなければ大きな問題にならない。
ただそれだけ。
でも全ては私次第。
現状を正確に理解できたかしら?
不意にこれまで静観していた孫がお供のワンコ君を制するように腕を上げたわ。