凍りついた私は腹黒い王子殿下の執着愛に溶かされる
 突如として響いた泣き声に、廊下にいた私はバッと顔を上げた。空気を切り裂くようなその声は赤子独特のものだった。

 隣にいたお父様と顔を見合わせる。
 窓から差し込む光が、いつもよりも明るく感じられた。

「生まれたな!」
 お父様は顔をこれ以上はないくらいにほころばせて私を見返した。

 待ちきれなくてドアに駆け寄ると、内側から開いた扉にぶつかりそうになってしまった。

「あらあらミネリア様、大丈夫でございますか?」
 中から現れたばあやが私にたずねる。

「大丈夫よ! それより!」
 催促する私に、ばあやはにっこりと笑う。

「ぼっちゃまの誕生でございます。ミネリア様にそっくりな黒い髪に緑の瞳でおかわいらしいお姿です。母子ともに大変お元気でいらっしゃいますよ!」

「やったあ!」
 私は歓声を上げ、お父様と抱き合って喜んだ。

 私は十歳にして初めて姉になった。





 我が国に第二王子殿下がご誕生あそばしたのは、それから数日後のことだった。

 残念ながら王妃殿下は産後の肥立ちが悪く、ご逝去なされた。

 そこで急遽、お母様が乳母として選ばれた。

 没落していた侯爵家の我が家はどこの勢力にも属さず、だから王家としては安心だったのだろう。身分も低すぎず、ほどよい感じだったに違いない。

 そのおかげで、私は殿下と面識を得た。
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