凍りついた私は腹黒い王子殿下の執着愛に溶かされる
 そうしていると、よけいに彼に抱かれている感覚が強くなる。
 温かくたくましい胸に、力強い腕、大きな手。なにもかもが私をどきどきさせる。

 殿下がお小さい頃は私が抱き上げたこともあったのに。もう私が抱き上げることなんてないのだ。そう思うと、ちょっと寂しい。

「もういいよ」
 言われて、目を開ける。
 と、一面の黄色に感嘆した。

「きれい!」
 見渡す限りのひまわりだった。
 小高くなったこの場所からは広々と一望できる。青い空に白い雲、ひまわりのコントラストが最高だ。

 彼はゆっくりと私を下ろした。

「ランチを食べたら降りて行こう。ひまわりの迷路になってるんだよ」
「面白そう!」
 私はわくわくと答える。

 従者が敷物を広げてくれて、大きな籠から皿を取り出して並べ、パンやらソーセージやら、ワインを準備してくれた。

 私たちは二人でそれを摘まみ、飲んだ。

 バゲットにパテを塗っただけのものでも、一緒に青空の下で食べると格別の味わいに変わる。ミニきゅうりのピクルスがアクセントになってるし、お肉のほぐし身を脂身で調理したリエットもおいしい。

 ワインの赤い輝きは夏の光でよりいっそうきらめいて見える。

「いい食べっぷりだな」
「殿下の言葉を信じるなら、十三年ぶりの昼食ですから。昨夜も今朝も緊張して、食事は味がしませんでした」
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