凍りついた私は腹黒い王子殿下の執着愛に溶かされる
帰城してすぐ、殿下は陛下に用事があると言って私と別れた。夕食のお断りに行ってくださったのだろうか。
夕食まで間があったので、私は城内の散策に出掛けた。
疲れていたけれど、夜のことを考えると落ち着かなかった。
歩いていれば、あまり深く考えなくてすむ。
役人たちも帰った城の中は人気がなくて少しさみしく感じた。
十三年の経過は感じられなくて、柱の陰から七歳の殿下がひょっこり顔を出すのでは、なんて思ってしまう。
「……氷漬けって本当かしら」
声が聞こえて、私は立ち止まった。
「本当よ。見たことあるもの。殿下ったらわざわざガラスの棺を作って自室で自ら保管されておられたのよ」
「棺ってことは死んだって思ってたってこと?」
「殿下は棺のつもりはなかったみたいよ」
メイドらしき女性たちが話していた。
氷漬けって、私のことだよね。
盗み聞きみたいでいやだな、と踵を返そうとしたとき。
「殿下は罪滅ぼしで結婚なさるんでしょ?」
「殿下、おかわいそう」
胸がずきっと痛んだ。同情や罪悪感で結婚なんて。
でも私の記憶にある幼い殿下はいつもお優しかった。魔力の暴発という罪の意識にさいなまされ、結婚に思い至ったのかもしれない。
だけど、それならあのときのキスは?
罪悪感であんなふうにキスをするものなの?
男性はみんなそうなの?
わからなくて、私は動けなくなる。