「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
『どう? 仕事終わってからになるけど、なにか買って持っていこうか?』

 麻美にはまだ巧さんのことを話せていない。すでにたくさん心配をかけているので、せめて陽平が異動して、今より環境が落ち着いたら話したいと考えていた。黙っていたことに対して不満を浴びせられるのは目に見えているけれど。

「ありがとう。熱だけしかなくて、もしかしたらストレスが原因なのかもしれないって思ってる。ネットスーパーで頼んだものがそろそろ届くから、大丈夫だよ」

『そっか。それならいいんだけど。あまり気にしすぎないでゆっくり治してね。美月のフォローなら喜んで引き受けるよ』

「ありがとう麻美。本当に助かる」

 ごくんと唾を飲み込んで、勇気がしぼまないうちに言葉を続ける。

「あのさ、私が休んでみんなの反応って、どう?」

『うーん。特に変わらないよ。でも栗林さんや、野田さんは心配していたよ』

「そうなんだ」

 栗林さんはひと回り年上の女性で、世間話など気さくに話しかけてくれる人だ。いつも笑顔で愚痴をこぼしているところを見たことがない。

 野田さんはふたつ年下の女性でクールな性格をしている。あまり笑ったりしないけれど、感情の波がほとんどなくいつも落ち着いていて大人で、個人的には接しやすい人だと感じている。

 自分の味方か敵かの二択で周りの人間をふるいにかけるのは間違っているけれど、それでもふたりが私に対し、そこまで悪い印象を持っていないと知れたのは救いになる。
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