「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
『まだ話せる? つらい?』

「話せるよ。どうかした?」

 むしろ麻美の声を聞いていると元気をもらえるのでありがたい。

『大塚さん、九月二十四日付けで異動になっていたけど、十七日付けに変更になったよ』

「え? 一カ月切るってこと?」

 うちは引き継ぎ期間を最低でも一カ月は設けている。

『後任の長屋(ながや)さん、大塚さんの前任者って知ってた?』

 私が生活雑貨部に入った時点で陽平はバイヤーとして活躍していた。

「知らない。長屋さんって、前任者だったんだ」

 長屋さんは四十代くらいの男性なのでそれなりに経験をしているだろうし、今後一緒に仕事をするにしても安心できそうだとは感じていたが、まさか前任者だったとは。陽平に対してあけすけな態度でいるので違和感はあったが、なるほどと腑に落ちる。

「なんか、複雑」

 このモヤモヤした感情に名前を付けるとしたらなんだろう。同情とは言い切れないし、かといって溜飲が下がっているわけでもない。

『美月が思い悩む必要はこれっぽっちもない。大塚さんの異動は、自業自得だよ』

「……うん、そうだよね」

『長電話になっちゃった、ごめん。ゆっくり休んでね』

「ありがとう。また連絡するね」

 通話を終えて時間を確認すると、十二時四十分だった。朝それなりに食べたのにお腹が空いている。

 のっそりと起き上がって汗で濡れたルームウエアを着替え、リビングへ移動し、巧さんが買ってくれた冷凍パスタを温めて食べた。
< 101 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop