「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 洗面所で上の服を脱ぎ、下着を外した時だった。玄関から物音がして、「ただいま」と巧さんの声が聞こえた。

「えっ!」

 慌てて上の服を着て、洗面所の扉を開ける。

 顔を覗かせると、巧さんがこちらへ向かってくるところだった。

「おかえりなさい。早いですね」

「ああ」と、短く返事をした巧さんは私の前で立ち止まるや否や、私の額に手をあてた。心臓が跳ねて、顔がかあっと燃えるように熱くなる。

「下がった?」

 首を傾げて私を見つめる巧さんと目を合わせていられない。

「下がりました」

 蚊の鳴くような声になった。触れられるのは初めてじゃないのに、どうして今日はこんなに気恥ずかしいのか。

「よかった。夕飯は食べられそうか? 消化にいいものを作ろうと思ってるけど」

「作ってくれるんですか?」

 目を大きく開いて驚きの声を上げたのに、巧さんは通常運転の無表情で洗面所に入って手を洗った。

「お昼はなにを食べた?」

「パスタです」

 巧さんの背中に返事をする。

「それなら米が……」

 話している途中で言葉を切った巧さんは一瞬動きを止めて、無言のまま手を拭いた。

 どうしたのだろう。献立を考えているのだろうか。
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