「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 切り分けてくれた林檎を食べていると巧さんが体温計を持ってきた。

 身体の軽さで回復に向かっているのは実感している。病は気からとはよく言ったものだ。私も熱があったら落胆しそうだからと昼から測っていない。

 無言の圧を感じて林檎を咀嚼するスピードがゆっくりになったが、だからといって測らないという選択肢はない。

 動き回ったから体温が上がっていそうで、ピピピと電子音が鳴ると拍動がドキドキと大きくなった。

「あ、三十七度です!」

 予想外に下がっていて胸を撫で下ろした。これなら明日は出勤できそうだ。

 巧さんはほっとしたように、春の日差しめいた柔らかな笑みを浮かべる。

「よかった」

「ご心配をおかけしました。いろいろ助けてくれてありがとうございます」

「夫婦になるんだし、こんなのあたり前だ」

 上手い返しが浮かばず結果として無言になってしまった。

 そっか、巧さんのなかで気持ちは変わっていないのね。

 ぴんと張りつめていた糸が緩んで気持ちが和らいだ感覚に自分でも驚く。頭では別に結婚の約束が取り消しになっても仕方ないと割り切っていたはずが、心の奥では違ったようだ。

 思っている以上に私は巧さんと結婚したいらしい。

 変なの。自分のことなのに他人事で……。
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