「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 こんな日に再会するなんてついていない。まともな格好の時がよかった。

 もっと会話がしたいという思いより、深読みされる前に去りたいという気持ちの方が大きくなる。

「お元気そうでよかったです。えっと、それじゃあ……」

 すでに次に階へ移動してしまったエレベーターを呼び戻そうとボタンを押す。巧さんは私の背中越しに淡々とした口調で声を掛けた。

「美月ちゃん、足どうしたんだ?」

 かなり驚いた。彼の前では数歩しか動いていない。問われて自身の足に視線を落とすと、違う意味でまた驚いた。

「えっ、腫れてる」

 ついて出た言葉に慌てて口を結ぶ。

「髪も濡れているし、服も」

「ちょっとトラブルがありまして」

「トラブルって?」

 もっと別の言い回しをすればよかった。警察官なのだからそりゃあ聞き返したくなるよね。

 この場を上手く切り抜ける手段が浮かばなないし、かといって先ほどのことを赤裸々に打ち明けられるほどの精神力が残っていない。

 それにただの痴話喧嘩なのだから、聞かされたところで反応に困るはず。
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