「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「憲明さんと食事をした後、送っていく機会が多かったんだ」

「お父さん、お酒大好きだから」

 美月ちゃんは呆れているような、でも愛情があるような、複雑な笑い方をする。

「俺は呼び出しがかかる可能性があるから基本的に飲まないし、相手にならなくてつまらなかったかもしれない」

「それはないですよ。ひとりでも楽しめる人だから。送ってもらえてラッキーと思っていたはずです」

「そうか」

 憲明さんと最後に食事に出掛けたのはいつだったか、記憶にないくらい会っていない。元気にしているだろうか。

 今日は飛島家へ行き、美月ちゃんの母である聡子さんに挨拶をする予定でいる。美月ちゃんも聡子さんも憲明さんとは長らく連絡を取っておらず、特に聡子さんにいたっては憲明さんと顔を合わせたくないとのことで、三人だけの顔合わせとなった。

「巧さん、口裏合わせしてくれて、本当にありがとうございます」

「気にするな。俺としても都合がいい」

 お礼と謝罪を述べられるのはこれで何度目だろうか。心の底から申し訳ないと思っているという気持ちが伝わり、美月ちゃんの生真面目さを改めて実感する。

 聡子さんに恋人の存在を話していたため、大塚陽平との交際期間は俺と付き合っていたと嘘をつくことにした。

 真実を話したところで誰かが幸せになるわけではない。だったらここは円満に結婚できるように、事実を捻じ曲げる必要もあるはずだ。
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