「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 リビングのテーブルにプラスチック容器に入ったお寿司が並んでいて、「ここに座って」と手招きされる。腰を下ろす前に用意した菓子折りを手渡した。

「なんだろう。楽しみ」

 少女のような反応は親しみやすさがあり、そういえば昔からあどけなさが残る人だったと思い出す。

「ひとりだとお寿司を食べる機会があまりなくて、私が食べたいっていう一存で決めちゃった」

 ふふふっと笑う聡子さんに、美月ちゃんは共感して相槌を打つ。

「お母さん、お弁当とか苦手だしね」

「スーパーで売っているお寿司じゃ駄目なの。舌が肥えちゃって」

 そこでふたりはおかしそうに声を上げて笑う。

 どこまでが真意か分からないけれど、ひとりで外食するタイプではなさそうだ。迷惑にならない頻度で聡子さんと食事をする機会をこれから作っていこうと、後で美月ちゃんに提案してみよう。

「ビールも飲んじゃおうっと」

「聡子さん、お酒飲めるんですね」

 冷蔵庫からビールの缶を取り出した背中に何気なく声を掛ける。振り返った聡子さんは眉尻を下げた複雑な微笑を浮かべていて、妙な沈黙が落ちた。

 美月ちゃんは俺を見てにこりと笑ったので余計に分からなくなる。
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