「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「うん。巧さんから伝えてもらった後、電話してみる」

「分かった」

 無理強いするのはよくないし、俺が会うのを許してくれているのだから別にいい。

 グラスに氷を入れ、珈琲が抽出されるのを眺めながら待つ。香ばしい匂いに包まれて、時間に追われずゆったりと過ごせるひと時に癒される。

「ねえ、巧さん」

 ドリップに視線を送っている美月が、こちらを見ないまま声の調子を落とした。改まった雰囲気を感じ取って、無表情の横顔を注視する。

「呼び捨てになったのって、婚約者としての男らしさを出そうとしたからですか?」

「いや、違うけど」

「じゃあなんでですか?」

 予想が外れたのが余程驚きだったのか美月は目を丸くしている。

「親密さが聡子さんに伝わるように」

「ああ……なるほど、そっちか……」

 この口振りは動機についてずっと考えていたのかもしれない。

「事前に話しておくべきだった。気にさせて悪かったな」

「いえ、全然大丈夫です」

 抽出が終わったドリップポットを持ち、美月が丁寧にグラスに注ぐ。氷が溶けてからりと鳴る音に風情があって綺麗だ。
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