「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 年下女性の野田さんに諭す言い方をされて苛立ったのか、同僚は分かりやすく不愉快そうに目を細めた。

「迷惑掛けられなければ、別にいいんですけど」

「この前休んだ時、誰も迷惑してないですよ。飛島さんって、いつも先回りして仕事を片付けているので」

 間髪を容れず発言した野田さんの静かなる圧に同僚はぐっと詰まる。

 野田さんは冷静沈着な性格なので普段通りといえばそうなのだが、落ち着き払った雰囲気はピリッとした緊張感を抱かせた。

「そうね、部長が飛島さんに任せたんだし、それでいいんじゃないかな」

 ゆったりとした声音で栗林さんが場をまとめようとしてくれた。先の展開が読めたからか、言い合いに気分が悪くなったのか、男性社員ひとりが席を立つ。

 同僚からの返答はなかったものの、無言を貫いているのでこの件はおしまいという意思表示だ。立ち込めていた不穏な空気が和らいで、ようやくまともに息ができる。

 栗林さんに軽く会釈をすると、にこりと笑顔で返された。野田さんは相変わらず飄々とした表情でパソコン画面を見つめている。

 麻美は資料に目を落としていて私を気に掛ける様子はないが、さっき間に入ろうとしていたのは分かった。

 みんなの温かな優しさが嬉しくて目の奥が熱くなる。

 守られてばかりじゃ私は強くなれない。現状を変えたいのなら自分から行動しないといけないよね。

 陽平がどんな態度を取ろうと、今回は遠慮せずに直接関わろう。

 気持ちを新たにしたら、暗闇の先に明るい光が差し込んだように心が軽くなった。
< 123 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop