「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 巧さんは人の気持ちを察するのが上手で、自分を理解してもらえている実感を得られるから話していて気分がいい。いや、楽しいという言葉の方が合っているかも。パズルのピースがぴたっとはまる感覚。

 店員にも他に見なくていいのかと念押しをされたが、大丈夫の一点張りで奥のソファ席へ案内してもらった。そこでは指輪の内側の刻印などを決め、納期がいつになるかの説明を受けた。

 ひと通りの手続きが終わり、店の外に出てスマートフォンで時間を確認する。

「まだ十八時前なんですね。夕飯は家で食べますか?」

「危ない」

 私の肩を抱き寄せた巧さんの胸に顔があたり、心臓がドキッと大きく跳ねた。揺れた視界の隅に、男性が運転する自転車がスピードを上げて通り過ぎていくのが映る。自転車を見送ってから一拍置いて、巧さんがそっと私を離した。

「すみません。下を向いていたから気づかなかったです」

「美月ちゃんは悪くないよ」

 歩行者がいる道での自転車が走る速度ではなかった。ただそういうふうに他者を悪く言うことはしないところは、いつも凄いなと思う。
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