「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 巧さんのこういうところが好きだ。恋に恋してフィルターのかかった目で見ているわけではなく、通常の心で感じ取っている。

 それだけ巧さんにはいいところが沢山あって、人として尊敬できる部分がある。

 巧さんに気づかれないように細く長い息をついて、激しくなった鼓動を落ち着かせようとする。

「大丈夫か? びっくりしたよな」

 それなのに巧さんは変化にすぐ気づき、労るように私の背中に手を添えた。触れられて、まだ治まっていない高鳴りが再び大きくなる。

 これくらいのスキンシップは家で時々ある。熱を出した時もそうだった。しかし今日は過剰反応している自分がいて、どうしてなにかと困惑した。

 外で、デートみたいだから?

 ちらりと見上げると目と鼻の先に巧さんの顔があった。心配するような表情で見守られて、耳まで熱くなる。

 あ、ダメだ。めちゃくちゃ恥ずかしい。

 いきなりスイッチが押され、強制的に恋が始まったような感覚。

「ありがとうございます」

 必死に絞り出した声は揺れて動揺しているのが丸分かりだ。

 周りの喧騒に紛れて誤魔化せたかは定かではないが、巧さんの表情に変わった様子はない。
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