「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「これ、ルームキー。部屋まで付き添えなくて悪い。もう行かないといけないから、また後で」

 差し出された鍵を反射的に受け取ると、巧さんはあっという間に姿を消した。

 巧さん、ずっと落ち着いていた。

 警察官だから……と思ったけれど、私の中に残っている巧さんの印象も今と変わらないし、元々そういう性格なのかもしれない。

 そういえば昔の私はその部分に惹かれたんだよね。

 小学四年生で初めて会ったので、あれが初恋と言い切れる自信はないが、生まれて初めて意識した異性は巧さんだった。

 懐かしいな。

 手の中にあるものをギュッと握りしめて大きく深呼吸する。

 先ほどのことを現実とは思いたくなくて、とにかく逃げ出したい一心で、自分の感情の揺れ動きから目を背けていた。しかし優しさに触れたことで張り詰めていた糸が切れ、視界が涙の膜でぼやけた。

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