「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
――巧side
業務を終え、部屋へ戻る前に気分を切り替えるため、ホテルのラウンジで珈琲を一杯飲むことにした。
美月ちゃんと最後に会ったのは、二十六歳で警視になり、彼女の父である憲明さんの弁護士事務所へ昇進の報告に行った時だ。
大学三年生だった美月ちゃんはいつの間にか綺麗な女性になっていて、俺が記憶する彼女の姿は子どものままで成長が止まっていたから、かなり驚いたのを覚えている。
美月ちゃんはあの時の俺と同じくらいの年齢になったのか。時の流れは早いな……。
記憶の隅にしか残っていなかった美月ちゃんが目の前に思いがけず現れ、波に飲み込まれるように事件当時の感情も流れ込んで、久しぶりに心が激しく揺さぶられた。
過去という言葉では片付けられない負の感情は、三十三歳という年齢になってもどう扱っていいのか戸惑う。
必ず犯人を捕まえるという怒りが発端となり警察官を志した。両親をひき逃げした犯人を絶対に許さないという気持ちは年々落ち着いてきたと思っていたが、まったくそうではなかったようだ。
美月ちゃんの顔を見ただけでここまでなるとは、まだまだ精神的な成長が必要だな。